礼と聞いてまず連想するのは「サイケデリック」といった形容詞だろうか。日本のロックを聴き漁るようになった自分が割礼を聴き始めたきっかけは、ジャックスから連なる前述した「サイケデリック」という系譜の中でのことだったと記憶している。当然後追い。リアルタイムでリリースされていたのは『IS IT A HALF-MOON or A FULL MOON?』の2枚のライブ盤で当時の甘ちゃんだった自分には早過ぎた苦い記憶が(その後めでたく自身内再評価を迎えます)。気を取り直し臨んだ作品は名盤と名高い『ネイルフラン』と『ゆれつづける』。これだ、これが求めていた「サイケデリック」だ。ゆったりとした音の波の中で、時間軸を超越した独特の空間、効果的に挿入されるチェロの音、何よりも一番響いたのはこの手の音楽で“言葉”がしっかりと聴き取れること。割礼=宍戸幸司の声こそが割礼を割礼たらしめる最たるものである。それは○○を聴いたことにより●●というジャンルを意識して聴き始めること、すなわちジャックスを聴いてサイケデリックに興味を持ち、割礼に行き着いたこと。ジャックスが「サイケデリック」の中で異彩だと思うのは(この際ジャックスが「サイケデリック」か云々は一旦置いといて)早川義夫のドロドロとしているようで聴きやすいボーカルにあるのだが、宍戸幸司もその意味では同列。それに気付いた瞬間、追い求めていたものは呪縛から解き放たれる。もはや「サイケデリック」という名の冠は彼方へ消え去り、中身だけが重要になる。

前置きが長くなったが、割礼は1983年に名古屋にて「割礼ペニスケース日曜日の青年達」名義で結成。当時の名古屋と言えば原爆オナニーズ、THE STAR CLUB、THE GOD、OXYDOLLに代表されるパンクバンドが多く派生した都市であり、上記の原爆オナニーズのレーベル〈Tin Drum Records〉からリリースされた『UNDERGROUND ROMANCE』(86年)コンピレーションに収録されている。その後インディーズ時代の名盤『PARADISE・K』(10年再発)を立て続けにリリース。ここまではまだパンクやニューウェーヴを感じさせるサウンドであるが、徐々に「サイケデリック」色を強めライブ盤『LIVE‘88』の頃には現在の割礼の原型が出来上がりつつある。その流れの中で産み落とされたのが冒頭で書いた『ネイルフラン』(89年)と『ゆれつづける』(90年)である。

割礼、真正たる名盤2作品が再び。30周年記念ライヴ開催前に2作品を軸に割礼の魅力を改めて振り返る music130110_katsurei_nail_jk2-1

割礼、真正たる名盤2作品が再び。30周年記念ライヴ開催前に2作品を軸に割礼の魅力を改めて振り返る music130110_katsurei_yure_jk-1

今回再発されたこの2作品はメジャーからのリリースということもあり、サウンド・プロダクションの向上と相まって完全に仕上がっている。まず『ネイルフラン』では静寂の中から紡ぎ出される“うた”が印象的でありアコースティックとシンセのナチュラルな融合が秀逸。プロデューサーはめんたんぴん・コクシネルの池田洋一郎であり、コクシネルが活動再開後のライブでの共演やアルバム『re-incarnation』にゲストでも参加。続く『ゆれつづける』はそれまでシンセサイザーだった山際英樹がギタリストとしてクレジットされ2本のギターの緻密な絡み合いが聴きどころ。誤解を恐れずに言えばポップな作品である。

再発にあたり宍戸幸司自身のアイデアにより、それぞれのアルバムに収録されていた曲を現メンバーでのライブ音源がボーナストラックとして追加収録されているのも面白い。聴き比べると曲自体はよりスロウでヘヴィに変貌してはいるが、根本的なところは何ら変わってはいない。元々リリース・ペースが早いバンドでは決してないし、バンドとしてのパーマネントな活動が停滞していた時期もあったが、割礼という集合体は着実に進化を遂げているように思える。否、深化の方が適正かも。奇しくも今年は結成30周年。

現在は割礼としての活動と並行して宍戸幸司はソロでも活動を行い、山際英樹はソロ活動とあわせてZ.O.Aの森川誠一郎、不失者の高橋幾郎との「血と雫」を結成。割礼としての最新作は初のスタジオ音源にファンが狂喜した“リボンの騎士”が収録された『星を見る』(10年)以来届いていないが、彼らのことだからマイペースに新曲を製造しているのであろう。次に我々の脳内を揺さぶってくれるのはいつになるか、それはまだ分からないが、今回の再発を聴きながら気長に待ち続けたいと思う。

text by 南 友和[ディスクユニオン

★今回の再初を記念した、結成30周年記念ライヴも決定!!
割礼・メモリアルイヤーのはじまりを見逃すな!!!!

Event Information

割礼 結成30周年・「ネイルフラン」「ゆれつづける」
リイシュー盤発売記念ライブ

2013.02.20(水)@高円寺HIGH
OPEN 19:00/START 19:30
ADV ¥2,800/DOOR ¥3,300(ドリンク代別)

LINE UP:
割礼
GUEST:Boris、下山(GEZAN)

TICKET
イープラス、店頭

INFO:HIGH(03-5378-0382)

Release Information

割礼、真正たる名盤2作品が再び。30周年記念ライヴ開催前に2作品を軸に割礼の魅力を改めて振り返る music130110_katsurei_nail_jk2-200x200 Now on sale!
Artist:割礼
Title:ネイルフラン
PECF-3035
¥2,800

Track List
01.溺れっぱなし
02.悲しみの恋人たち
03.目かくし
04.太陽の真ん中のリフ
05.バラ色の宇宙
06.ネイルフラン
07.君の写真

ボーナストラック
08.太陽の真ん中のリフ (LIVE2012)
09.ネイルフラン (LIVE2012)
10.君の写真 (LIVE2012)

Now on sale!
Artist:割礼
Title:ゆれつづける
PECF-3036
¥2,800(tax incl.)

Track List
01.緑色の炎
02.散歩
03.電話の悪魔
04.海のあの娘
05.怪人20面相
06.歪み
07.素敵な季節
08.ゆれつづける
09.ごめんね女の子

ボーナストラック
10.散歩 (LIVE2012)
11.怪人20面相 (LIVE2012)
12.電話の悪魔 (LIVE2012)