Daniel Wang / Soju Bar / photo by Rieko Matsui

3回目となる今回は、様々なローカルパーティーへ足を運んでいる松井理恵子が、〈Balihu〉レーベルオーナーであり、ディスコ・ダブ・サウンドのオリジネーターとして知られているダニエル・ワンのプライベートパーティーに潜入!!
ベルリンのローカルクラブでしか味わえないエキサイティングな体験、日本のクラブ文化との違い、何より音楽への熱い思いなど、ダニエル本人も語ってくれた貴重なレポートとなっています!クラブカルチャー編ラストとなります。是非ご覧下さい。

text by Kana Miyazawa


ベルリン・ローカルPARTYレポート:Daniel Wang pres. “Night Flight” @Soju Bar

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ベルリンのナイト・ライフは、平日から前のめりである。例えば水曜の夜中に、さほど規模の大きくないbar兼クラブのような場所で、週末には大きなクラブやフェスで回すような一流DJが、サラっと自分のパーティーを開いていたりする。それも、ごく良心的なエントランス料金で。

“Night Flight” は、ディスコやハウスをメインにジャズ、ソウルやイタロ等を自在に織り交ぜ独特のmixセンスでどこまでもハッピーにフロアを沸かせ踊らせるDJ、ダニエル・ワンがホストをつとめ、2年弱に渡り隔月第一水曜に、クロイツベルグにある韓国ソウルフード・レストランに併設するクラブ、Soju Barで開催されていた。ベルリンの週末を彩る20時間以上も続くようなハードコアなパーティーではなく、あくまでも「水曜の夜に、いい音楽で踊りたい親しい人たちが気軽に集える場所」という雰囲気の、ハートウォーミングなパーティーだ。

終始ピースな笑みを絶やさず音を紡ぎ続けるダニエルがプレイするブース後方の壁一面には、常連のお客さんが膨らませた細長い風船たちが一面に飾られ、ポップだが何とも言えないエロティックさも漂い、いかにもダニエルのパーティーらしい。また、彼のパーティーを訪れたことのある人にとってはお馴染みの、英語ドイツ語、イラストの入り交じった本人手描きのポスターが至る所に貼られており、かと思えばフロアではお客さんがシャボン玉をひたすら吹きまくっていたり、見渡せばアガる要素ばかりだ。

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Guest DJ : Bruce Oscar

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このSoju Barは、海外資本のホテルが上階にオープンする関係で、大音量の音楽を伴うパーティーが禁止になってしまった経緯があり、来月頭に一旦クローズした後、別コンセプトをもってリニューアルオープンする。そうした事情でこの場所でのラスト開催となった事も手伝い、この夜のフロアは、平日とは思えない高揚感に包まれた。

ここ数年でベルリンには、日本人を含む海外からの移住者が急激に増えた。それにはいい面も、そうとは言い切れない面もあると、10年近くベルリンのシーンを見続けてきたダニエルは、深い洞察力を持って語ってくれた。

「今、クラブ、音楽、ファッションなんかについて、世界中がベルリンに注目してるよね。僕は1993-2003年にかけてNYに住んでたんだけど、沢山の日本人が移住してきた時のことをよく覚えてる。パラダイス・ガラージとかロキシーみたいな伝説のクラブがあって、人々はそこに純粋に踊りに行ってた。でも大勢の移住者がやって来て、そういうクラブはまるで観光地みたいになって来ちゃって、ゲイやアフリカン・アメリカンといった元々のオーディエンスにとっては、もう全然面白くなくなっちゃったんだよね。

ベルリンは今、色んな国籍の住民が混在してる状態。日本人は比較的まだ少ない方だね。過去10年で人口は約30万人も増えて、40歳以下の人のポピュラーな旅行先としては今、ヨーロッパ中でロンドンとパリに次いで3位。家賃もすごく高くなった。これは移住者のせいだけじゃなくて、ドイツ人達もみんな “世界で一番クールな都市に住みたい”と思ってるからなんだけど。それでもまだNYやロンドンと比べれば安いし、クオリティも高いよね。まぁ、資本主義化を止めることは誰にもできないよね。

でもベルリンは、変化に対して現実的だと思うよ。観光はお金を生み出すから、都市を再建するのに役立つし。勿論、誰もが成功できるわけじゃないけどね。音楽シーンはこういう全体の大きな絵の中の、ごく小さな一部に過ぎないと思う。でもNYや東京と明らかに違うのは、政府がナイトライフは重要だって気づいてて、ベルグハインみたいなクラブの建設や営業に協力してること。だってもしナイトライフが廃れてしまったら若者達がベルリンに来なくなっちゃうって、政府はよく知ってるからね。クラブビジネスって、いかにでありつつもを売れるかってことで、なかなか際どいところではあるよね。」

さて、パーティーに戻ろう。夜も白々と明けかける頃、まだまだこれからもうひと盛上がり見せそうな熱気の中、それまでフロアを引張っていた目立つお客さん達が上着を着込み帰宅支度を始めると見ると、ダニエルがその天才的なサービス精神を発揮して “Loleatta Holloway – Love Sensation” といった最強のアゲ曲を挿入してくる。一旦帰りかけた彼らは当然の流れで、皆で合唱しながらもう一曲ぶん長居するハメになるなど、「パーティーって本当に、DJとお客さんの掛合いで成り立っているよな〜」とニンマリしてしまうような展開もあったりして、これだからクラブ遊びは面白いのである。

また、ベルリンのパーティー族に非常に多いゲイ・ピープルを筆頭に、ストレートでも筋肉自慢のメンズ陣は、ハッスルしてくるとやたらと上半身をさらしたがる傾向にあるのが特徴的だ。この日も3時AM頃から、焼酎ショットのグラスが飲み干される回数に比例し脱ぎ出す面々続出で、フロア中が何とも言えない熱狂感で充満していた。仕舞いには、完全素面のダニエル本人も、Tシャツを脱ぎ捨てブースに立つ始末。紡ぎ出される音世界はキラキラ、どぎつい程にカラフルなネオンライトに照らされてフロアは時にギラギラ、とでも表現すれば、伝わりやすいだろうか?

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[twocol_one]【フリーランスPR&ライター宮沢香奈が迫る!!】ベルリンカルチャーの魅力を紐解く旅vol.3 life130118_berlin_2_342-e1358486723595[/twocol_one]
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こうしたエピソードからもお分り頂けるように、ベルリンのフロアに立ち続けてみてつくづく感じることは、ここでは本当にDJとお客さんの距離感が近く(というかほぼ無く)、関係が対等という事だ。勿論、DJ/アーティストは大いにリスペクトされる対象ではあるのだが、もっと「一緒にフロア・メイキングをしている同志」といった感覚が強い気がする。東京でクラブ通いをしていた頃、一オーディエンスであった筆者にとって、大御所DJ達はまさに「芸能人」のような存在で、DJブースの物理的な位置と同じに、彼/彼女達は常に「一段上の」場所にいた。でもベルリンに来てみたら、音に貪欲なお客さんは、それこそブースにかじりつくようにして踊っており、気になる曲がターンテーブルから降ろされた瞬間に両手を伸ばしてDJから直に盤名を教えてもらっている光景も、日常的に目にする。自分もまた、気軽にそう出来るようになった。DJ達も(人柄にも勿論よるが、基本的には)喜んで対応してあげている。こうした生のコミュニケーションを介して、音楽への愛は、世代から世代へと受け継がれてゆくものなのではないだろうか。ダニエルはまさにそうしたDJの代表格で、プレイ中の曲のジャケを掲げて自ら踊りながらのDJはお手のもの、真の「おもてなし上手」である。

ダニエルは語る。「僕は純粋に音楽とダンスが大好きだから、ベルリンが今後どう発展していくのかすごく興味があるね。でもやっぱり、ドイツ人はクールだと思うよ。セクシュアリティとか身体表現っていう事についてオープンだし、ダンスやクラビングもそれらの一部だって、よく分ってるからね。ベルリンの(※ダニエル本人の表現)クラウス・ヴォーヴェライト氏は、3〜4年前はベルグハインに遊びに来てたりもしてたんだよ。だって彼は、オープンなゲイだからね!みんな、そんな彼を賞賛してたよ。」

さて。そんなこんなで、この日のパーティー。本来4時AMでクローズする予定が、一向にお客さんが去らず。明らかにラストを告げるスローチューンが流れても、まだみな名残惜しそうにフロアにたむろしており、最終的には、ダニエル本人の “Everybody OOOUT!!! (みんな、もう出て〜!!!)” の一声がフロアに響く羽目に…。結局5時AM過ぎのお開きとなった。ベルリンの週末の、よりハードコアなパーティーの空気感にも充分慣れている筆者でもちょっとクラクラしてしまうような、独特の多幸感に包まれた一夜だった。

最後に、今後の展開について尋ねた。「Night Flightはね…、また別の場所で、続けるかもね?」
ディテールには多少変更があるかも知れないが、ダニーがホストをつとめるパーティーならば間違いなく通うだろうと思わせてくれる。こんな風に、常に真摯にパーティーシーンと音楽に向き合い、愛に溢れた時間と空間をプロデュースしてくれる信頼のおけるDJを同じ街に持つことは、ダンスミュージック・フリークにとってはやはり、何にも勝る宝なのである。

text & photo by Rieko Matsui (Berlin)
special thanks to Daniel Wang , Soju Bar

ライタープロフィール

松井理恵子(Rieko Matsui)
ハードコア・クラバーおよびフロア・ダンサー、フリーランスライター。幼少期よりクラシックをを始めとする音楽、ダンスに親しみ、当時在住していたニューヨークにて4歳の頃、マイケル・ジャクソン『スリラー』と映画『フラッシュダンス』により、ダンス・ミュージックの洗礼を受ける。アーティストPR、日本での様々なイベントや取材時の通訳等の経験を経て、2010年よりクラブ・カルチャーのメッカ、ベルリンに移住。探求を続ける日々。

宮沢香奈(Kana Miyazawa)
セレクトショップでのプレス経験をもとに、インディペンデントなPR事業をスタートさせる。国内外のブランドプレスやパーティーなどのファッションPRとクラブイベントや大型フェス、レーベル、アーティストインタビューなどの音楽PR二本を軸にフリーランスとして奮闘中。今までにBIG BEACH FESTIVAL2009, 2011、rural2011,2012、XLAND2012、横浜ベイホール15th、ageha 10th anniversaryなどを手掛ける。ファッションにおいては、2012AWより国内初となるUNITED NUDEのPRに就任。その他、フリーライターとして執筆活動も行っている。