——今、日本では若いバンドはメジャーレーベルに大量に青田買いされている状況ですけど、同時に音楽で食べていけるか、いけないか? で悩んでいるバンドやアーティストも多いですよね。

小林 うん。音楽で食えたら食えたでいいんだけど、別に食えなくてもいいって気持ちは正直なところあるんですよ。僕たちはそこでまだ勝負してますけど、音楽でお金が稼げないっていうのは束縛にも似た思い込みというか、そこで身動き取れない人も多いと思うんです。これは本で読んだエピソードなんですけど、「日本のミュージシャンと海外のミュージシャンでいつ自分がプロになった意識を持ったか?」っていうアンケートに対して、日本の人はたいていどこかに所属して月給を初めてもらえた時に思うらしい。一方、海外の場合はバラバラというかそれこそ初めてギグをしたとか、曲を作ったとか、何千人のオーディエンスがいる光景を目にした瞬間とかなんですね。それは音楽業界に対するそれぞれの認識や慣例とかを表してる感じがして。日本ってどこかに所属することが前提になってるからこんなに苦しいんだと思うんですよ。実際、バンドをやめていった友だちも沢山いるし。でも、自分たちでまわしていくことで音楽だけで食えないけど、損はしないよっていうやり方も絶対あると思っていて、実際、今、それをやってる。もちろん、やめる云々は自由。少なくともいい音楽が、生活がまわらないって理由だけで閉じていっちゃうのだけが寂しい、それだけなんですよね。

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——ちなみにTHE NOVEMBERSにとってメジャーレーベルはどんな存在?

小林 メジャーっていうのも、この先目的が合うんだったらパートナーとして選んでもいいかなって気はするんですけど、今のところお互いの目的がなんなのか? っていうところでも出会えていないし。メジャーの力が必要で、向こうもTHE NOVEMBERSをどうしたいっていう人がいるんだったら会ってみたいし。

吉木 面白い人がいればね。

小林 そこはさっきの大型店の話と同じで、大手流通やメジャーを否定してる気はないし、ニッチなものに対して美意識を見出しているワケではないというのは声を大にして言いたいところではあって。

——たまにミュージシャンよりいい意味で狂ってるディレクターの方とかいますけどね(笑)。

小林 そういう面白い人に会ってみたいんですけど、現状は「これまでがこうだったからこれからもこう」っていう以上のことをしている人には出会ったことはないですね。たとえばtofu(beats)くんとかは、tofuくんのやってることにレーベルが付き合ってうまくいったみたいに思えるし、ミュージシャンがそうやって新しいことをやっていかないと誰もついてこないと思うんですよね。

——ミュージシャン自身がレーベルをまわそうが、メジャーでやろうが、要は音楽の目的を勘違いしなければいいと?

小林 だと思うし、今は自分たちでやってるから何を言われたってこっちに説得力あるよねっていうところは正直いってあります。

——では独立のモチベーションにもなったニューアルバム『zeitgeist』についてお訊きするんですが、何かテーマを持って臨んだアルバムなんですか?

“鉄の夢”MV from 4th Album『zeitgeist』

小林 精神的にはワンテーマですね。「何を選ぶか選ばないか、おまえがおまえ自身で選べ」っていう、ホントそれだけのアルバムというか、何をいいとか悪いとかって実は一言も言ってなくて、おのおのが選んで自分で答えを出してほしい、“おせっかいアルバム”というか(笑)。

——もう少し詳しく聞きたいんですが、それはタイトルが意味する“時代精神”につながってくるんですよね。これは資料によると映画監督ピーター・ジョセフによる同名映画のタイトルで造語なんですよね。

小林 そもそもレーベル名の〈MERZ〉と同じで、とある芸術運動の首謀者(クルト・シュビッタース)がいて、その人が自分の作る作品をアレとかコレとかソレとか、意味のない言葉で呼んでいたのと一緒だと思うんですけど、「今、目の前にあるこの不確かなものはなんだ?」っていうときに、「ただソレ=時代精神」としか言ってないんですよ。時代精神っていうのにあなたは確実に組み込まれているけど、それとどう付き合っていくのかとか、そこでどうやって生きていくのかはあなた次第だけど、っていう作品ですね。

“Flower of life”MV from 4th Album『zeitgeist』

——サウンド的にはコンセプチュアルというよりはここ最近の作品のTHE NOVEMBERSのさまざまなベクトルを1枚で味わえる印象だったんですが。

小林 総括というか、『GIFT』と『Fourth wall』を経て、今の自分たちのまとめみたいなつもりで作っていったところがあるので、音楽的には総括になったんでしょうね。

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