人間の生活の中で奏でられる音のみで作られた摩訶不思議なアルバム『ア・ヌード(ザ・パーフェクト・ボディ)』を7月1日に発売した奇才マシュー・ハーバート(Matthew Herbert)。マシューの天才的な音楽家の側面と、変態的な芸術家の側面が見事に融合した、最新作『ア・ヌード(ザ・パーフェクト・ボディ)』の背景を彼のこれまでの歩みを振り返りつつ明らかにしたいと思う。

イギリスの国営放送BBCの録音技術者を父親に持ち、幼いときからヴァリオリンやピアノを学んだマシュー。レディオヘッドのトム・ヨークやハリー・ポッターシリーズの著者J・K・ローリングらと同じイギリスの名門エクセター大学で演劇を専攻する。ウィッシュマウンテン(Wishmountain)、レディオ・ボーイ(Radio Boy)など複数の名義を使いわける彼がハーバート名義で1998年にリリースしたのが『アラウンド・ザ・ハウス』である。アルバムタイトルのとおりキッチン用品などから生み出される日常生活音とボーカルを組み合わせて構成されている。『アラウンド・ザ・ハウス』はアメリカのピッチフォークが選ぶ1990年代のアルバム100にも選ばれるなど高い評価を得た。2001年には『ボディリー・ファンクションズ』が〈Studio !K7〉よりリリースされ世界的に流通された初の作品となる。『アラウンド・ザ・ハウス』と同じく日常音をサンプリングする方式を採用した同作品は、人間の髪の毛や肌などから奏でられるサウンドを集めて製作されている。女性ボーカルをフィーチャーした“サドゥンリー”など聴きやすい楽曲も収録されており、マシュー・ハーバート初心者でも聴きやすいアルバムとなっている。最新作『ア・ヌード(ザ・パーフェクト・ボディ)』でも同様のサンプリング方式が取られている。

HERBERT – Suddenly (Official Video) – Matthew Herbert

また、レディオ・ボーイ名義で製作された『ザ・マシーンズ・オブ・ディストラクション』では政治色を打ち出した楽曲をリリース。マクドナルド、ギャップ、スターバックスなどのグローバル企業でサウンドをサンプリングしグローバリズムを批判した作品をリリース。“マクドナルド”では、日本のマクドナルドでの音声もサンプリングされている。流石は名門エクセター大学出身のインテリと思えるような、彼の知的な一面を垣間見れる作品となっている。2000年にはサプリングなどのルールを自ら定めてマニフェストを発表し、そのガイドラインに基づいて作品が製作されている。

Radio Boy – McDonalds

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