ティエの“サムバディ・ザット・アイ・ユースト・トゥ・ノウ ~失恋サムバディ”を覚えているだろうか? 2012年もっとも売れたシングルとして<第55回グラミー賞>で「年間最優秀レコード(レコード・オブ・ジ・イヤー)」と「ベスト・ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス」の2部門を獲得し、授賞式のプレゼンターを務めたプリンスに「大好きな曲だ」と言わしめたあの楽曲にフィーチャーされ、一躍世界の注目を浴びたのがニュージーランド出身の歌姫キンブラだ。

【字幕付】ゴティエ – “サムバディ・ザット・アイ・ユースト・トゥ・ノウ”

■その早熟さはロード以上? 前作以上にポップ・センス炸裂の2ndアルバムがリリース

1990年生まれのキンブラことキンブラ・リー・ジョンソンは、弱冠10歳にして作曲活動を始めた早熟なキャリアの持ち主。国内のティーンを対象としたコンテストなどで頭角をあらわした彼女は、ジャミロクワイとの仕事で著名なマーク・リチャードソンに見初められ、17歳の時にオーストラリア・メルボルンに移住。2010年、彼女の代表曲である“Settle Down”でシングル・デビューを果たし、マイアミ・ホラーの“I Look to You”やゴティエとのデュエットを経て、メジャーの〈ワーナー〉より1stアルバム『Vows』(11年/日本盤未発売)を発表する。ニーナ・シモン、フローレンス・アンド・ザ・マシーン、あるいはビョークなどを引き合いに出されるキンブラの音楽性はとても一筋縄ではいかないもので、アルバムは母国ニュージーランドで最高3位、オーストラリアで最高4位とチャートを賑わせ、豪州版グラミー賞〈ARIAミュージック・アウォーズ〉で「ベスト・フィメール・アーティスト」を受賞。その底知れぬ才能は、グラミー・ノミネートよりもずっと以前から証明されていた。

Kimbra -“Settle Down”

そんな彼女が、15歳の頃から憧れていたリッチ・コスティ(ミューズ、フランツ・フェルディナンド、Birdy等)をプロデューサーに迎え、2ndアルバム『ザ・ゴールデン・エコー』をリリース。マイケル・ジャクソンやマライア・キャリー、ニルヴァーナ、アリーヤといった自身が影響を受けたアーティストの名前を羅列したストレンジ・ポップな先行シングル“90s ミュ-ジック”の時点で手応えは抜群だったが、アルバムは斜め上を行くとんでもない傑作に仕上がった。前作よりもシンセや打ち込みを多用しながら、本人いわく「オーガニックでライヴ感のある」生演奏を果敢に取り込んだ予測不可能な曲展開は、意外にもメタルっ子だというキンブラの音楽的ボキャブラリーの豊かさを存分に発揮。オリビア・ニュートン・ジョンの“フィジカル”を現代版にアップデートしたかのようなディスコ・ソング“ミラクル”には、誰もがノックアウトだろう。

Kimbra -“Miracle”

■ 錚々たる男性ミュージシャンたちがゲスト参加、キンブラの黄金時代が幕を開ける!

また、ゲストの人選もハンパじゃない。先述の“90s ミュ-ジック”ではミューズのマシュー・ベラミーがギターで、フォスター・ザ・ピープルのマーク・フォスターがコーラスで参加しており、8曲目“エヴァーラヴィン・ヤ”はネオ・ソウル界の男性シンガー、ビラルをフィーチャリング。そしてジョン・レジェンドやオマー・ロドリゲス・ロペスといったベテランから、フライング・ロータス&サンダーキャットというLAビート組(キンブラは現在LAのシルバーレイク在住)、さらにダーティー・プロジェクターズのデイヴ・ロングストレスらも顔を揃えており、実力派の男性ミュージシャンたちを次々と虜にしていくその姿は、あのレジーナ・スペクターとも重なる部分と言えるかもしれない(どちらも“赤”がキーカラーですしね)。つまり、キンブラは同業のミュージシャンにとっても鮮烈で、刺激的な存在なのだ。

残念ながらジャネール・モネイとのWヘッドライン・ツアーは中止となってしまったが、彼女たちを筆頭にブラッド・オレンジやハイムといった、「殿下チルドレン」とも呼べるアーティスト/バンドの活躍に触発されたのか、そのプリンスも古巣〈ワーナー〉と再契約を結び、秋には4年ぶりの新作を2枚同時リリースする。まさに黄金期(ゴールデン)を迎えつつあるキンブラが、敬愛するプリンスとレーベルメイトになったという事実には、運命を感じさせずにいられない。

(text by Kohei UENO)

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