反復的な演奏と強烈なグルーヴで聴く者をトランス状態へと誘う音楽はアフリカ、インド、中南米、ヨーロッパ各地などの世界中に数多く存在するが、その東南アジア圏の代表格といえばインドネシアとその周辺国を中心に奏でられるガムランだろう。一般的によく知られるガムランは、鉄琴やゴングといった主に青銅を使った鉄製楽器によるメタリックな響きが心地よいアンサンブルで“青銅のシンフォニー”とも形容されることがあるが、今回に紹介する「スアール・アグン」は、まず竹製の打楽器を使ったガムラン楽団であることが特徴的。竹といっても、超重低音を放つ最大のものは長さ3.3メートル、直径20センチにも及ぶ巨大な竹を使用した規格外のスケールで、その重低音パートを担う“ジェゴグ”と呼ばれる楽器の名を冠して、スアール・アグンの奏でる音楽はジェゴグと呼ばれる。

スアール・アグン

坂本龍一らとも共演。圧倒的なグルーヴに失神者も!?人力トランスミュージックで狂騒させるスアール・アグンとは? music160822_jegog-pickup_6

坂本龍一らとも共演。圧倒的なグルーヴに失神者も!?人力トランスミュージックで狂騒させるスアール・アグンとは? music160822_jegog-pickup_7

坂本龍一らとも共演。圧倒的なグルーヴに失神者も!?人力トランスミュージックで狂騒させるスアール・アグンとは? music160822_jegog-pickup_2

スアール・アグンが拠点とするバリ島西部のヌガラ地方は、島でも有数の水田地帯にして大小の様々な太さの竹が多く生息する地域として知られ、伝統的に竹の楽器を使った音楽が発達してきた。ジェゴグに使用する巨大な竹もこの地域でしか採れないことから、ガムランが盛んなバリ島の中でも独自にこのような“竹のガムラン・オーケストラ”が発展してきたわけだが、オランダの植民地時代には竹槍のような武器にも転用できるということで、長らく禁止されてきた。

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坂本龍一らとも共演。圧倒的なグルーヴに失神者も!?人力トランスミュージックで狂騒させるスアール・アグンとは? music160822_jegog-pickup_3

それを戦後の動乱期を経て見事に現代に復興させたのが、71年に結成されたスアール・アグンであり、80年代の後半から90年代にかけて「ワールド・ミュージック」が広く親しまれるようになった時期には、日本のメジャー・レーベルからも現地録音盤などが複数リリースされてきた名門グループである。プレイ中に観客のみならず演奏者にも失神する者が続出する場合もあるほどに強烈なヴァイヴレーションを放つサウンドは「民族音楽」という学究的なカテゴリーだけに収めておくにはあまりにも刺激的かつグルーヴィーで、多面的な音楽的魅力を内包したものだった。

ジェゴグツアー:バリの民族舞踊

ミニマルなリフやリズムの繰り返しによって高揚感を高める反復グルーヴの快楽、レゲエのサウンド・システムや最新鋭のベース・ミュージックなどにも劣ることのないソニックな重低音、音響派と称される音楽やドローンを多用したサウンドに慣れ親しんだ耳にも刺激的な倍音をたっぷりと含んだ竹の楽器のアンサンブルなど……。少し観点を変えて、スアール・アグンの音楽が含む魅力をこのように形容してみれば、伝統やローカルな風土に根差した音楽でありながら、現代の最先端のポップ・ミュージックが持つツボをほぼすべて兼ね備えたものであることがよくわかるはず。

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