70年代からジャズ・シーンの最前線を走り続けてきたトランペット奏者、近藤等則。私は彼のことを、畏敬の念を込めて“ラッパ極道”と呼んできた。読んで字のごとく、ラッパ道を極める男。

近藤は70年代後半、フリー・ジャズの尖鋭プレイヤーとして単身ニューヨークに渡り、パンクやファンク、ヒップホップにテクノ等々あらゆるモードを貪欲に飲み込みながら、世界中の一流プレイヤーとわたりあった。まるで、殴り合いのように。そして、その経験を糧に、80年代には、IMAバンドを率いて日本の音楽シーンでも旋風を巻き起こした。しかし人気絶頂の93年、突然バンドを解散し、アムステルダムに移住。以後は、「地球を吹く」という新しいプロジェクトを掲げて、大自然の中で空や山や海や砂漠や星に向かってラッパ=エレクトリック・トランペットを吹き続けた。

そんな近藤が日本に戻ったのは一昨年のこと。再び、人間に向かってラッパを吹き始めた彼の新しいアルバムは、なんとジャズのスタンダード曲ばかりをカヴァーした作品である。“枯葉”や“サマータイム”、“ミスティ”、“マイ・ファニー・ヴァレンタイン”といったお馴染みの名曲ばかりが収められた『Toshinori Kondo plays Standards~あなたは恋を知らない』は、しかし、エレクトリック・トランペットの硬質なトーンと、イタリア人トラックメイカーが繰り出すエレクトロニク・サウンドが星空にシュールな幻影を描き出す、なんとも危険な作品なのだった。未来的でアヴァンギャルド、と同時にとことんスウィートでドリーミー。まさに、近藤等則にしか作れないマジカルな世界である。

目指しているのは、ただ一つ。21世紀の音楽である。60代も既に後半に入った近藤の闘志と眼光の鋭さは、依然衰えを知らない。

Interview:近藤等則

――“激しく闘う男”という近藤さんのパブリック・イメージからすると、誰もが知っているスタンダード曲のカヴァ集というこのコンセプトは、意外な気もするんですが。

俺はこのアルバムでも闘ってるつもりだよ。世界中の誰もやってないスタンダード・カヴァーをやったと思っている。ジャズのスタンダード集は数えきれないほど出ている。そして、その99%がアコースティック・アンサンブル。で、俺はそれをエレクトリック/エレクトロニックでやった。同じスタンダード・カヴァーでも、まるっきり違う背景で作ったつもり。アコースティック楽器でそのままスタンダードをやっても面白くもなんともないしね。

――このアルバムが録音されたのは2003年ですが、何かきっかけはあったんですか。
 
恋をいっぱいしちゃったんだな(笑)。俺がネエちゃんからネイチャーへと移っていったのが1993年だった。つまり、「地球を吹く」プロジェクトを93年から10年間続け、エレクトリックのサウンド・システムのことやヴァイブレイションのことがよくわかってきたので、普通の素材を自分にしかできないような方法で料理できるなと思ったわけだ。まあ、それだけを強調するつもりもなく、メロディを聴いて結果的に、今までにない世界だなと思ってもらえたらいいんだけど。ちなみに、ハービー山口さんの写真を使った今回のアルバム・ジャケットもいいけど、作った当初は、エルスケンが撮ったパリ左岸の古い写真を自分で貼り付けていたんだよ。

――スタンダード曲は昔から吹いていたんですか。

ジャズをやるんだったらスタンダードぐらいは演奏できなきゃね。でも、人前ではけっしてやらなかった。フリー・ジャズばかり演奏してきたから。

――選曲も、最初から恋というコンセプトで選んだんですか。

そう。先に自分で10曲ぐらい選んでおいて、エラルドをイタリアからアムスに呼んだ。毎日3曲ぐらいずつ、BPMを指定してトラックを作ってもらった。

――エラルド・ベルノッキ(Eraldo Bernocchi)とは、ビル・ラズウェルと3人で作った99年のアルバム『Charged』が最初の仕事でしたっけ?

そうだね。あれ以降もずっと彼とはつきあってきた。『Charged』がヨーロッパではけっこう売れたから、その3人でいろんなフェスにも出たし。とにかく俺はデジタル・テクノロジーが大好きだからね。84年、ハービー・ハンコックの『Sound-System』に参加した後すぐに自分でもドラムマシーンを買って使い始め、打ち込みの更なる可能性というものをずっと模索してきた。DJクラッシュとアルバムを作ったり、その他いろんなビートメイカーたちとコラボレイションをしたり。すると、国によってビートメイカーのテイストも違うということがわかってくる。イタリア人は、やっぱロマンティックだよね。イギリス人ほどハードコアなビートは作れないんだけど、逆に、イタリアならではの独特のムードを持っている。だから今回は、彼に声をかけたんだ。作り始める時には既に頭の中に完全なサウンド・イメージができあがっていたので、特に苦労することもなく、すんなり作れた。でもその後、発売元を探すのかせめんどくさかったので、今日までほったらかしになっていたんだ。

【インタビュー】近藤等則、アムスにいた18年間と新作を語る interview150420_toshinori-kondo_main-780x780

『Toshinori Kondo plays Standards~あなたは恋を知らない』ジャケ写

――本作以外にも、アムス時代に録音したままリリースされていない音源はたくさんあるんですか。

過去20年間に録音した未発表音源が、アルバムにして40枚分ぐらいある。そういう音源を最近やっと、自分のレーベル〈Toshinori Kondo Recordings〉で販売し始めたところなんだ。月1枚ペースで、まずは1年間リリースする予定。今年8月までで12枚になるから、その段階で、次にどうするか考えようと思っている。

――近年、アムステルダムから再び日本に拠点を移されました。アムス暮らしは長かったですね。

長かった。18年だね。その間俺は「地球を吹く」にのめりこんだ。さすがに、やりたいこと、やるべきことはやり尽した、と思った。それが2012年。面白いことに、ちょうど同じ頃、打ち込みやサウンド・システムのことも含め、エレクトリック・トランペトに関する自分のなりの手法の完成を実感するようになった。そこで、もう一度、人に聴いてもらう音楽をやりたいなと思うようになり、日本に戻ることにしたんだ。それまでは、自然の中で演奏するのが一番気持ちよかったんだけど。ずっと、人間に向けて演奏したいという気は全然起こらなかったんだよ。

――93年にアムスに移住したのは、人前で演奏するのが嫌になったから、みたいにも聞こえますが

そうだよ。それだけ。とにかく一人になりたかった。そして、人前じゃなく、大自然の中で演奏することに関心が移っていた。ちょうどNHKの「地球を吹く」プロジェクトも始まった頃で、イスラエルの砂漠やアンデスの山中で吹く方が、人前とは比べものにならないぐらい気持ち良かったんだ。比べものにならないぐらい気持ちいい彼女ができたら、奥さんなんかほっとくじゃん。男は正直に生きなくちゃ。俺は直観でしか生きられない動物だし。君らはマニュアルで生きているんだろうけど。ずっと即興の世界で生きていれば、直観が研ぎ澄まされるのは当然だよね。譜面を見てマニュアル通りに演奏している奴とは違う。いつだって、直観とノリだよ。

――「地球を吹く」は、NHK-BS「世界わが心の旅 エルサレム混沌の音」をきっかけにスタートしたわけですが、なぜ最初にエルサレム/イスラエルを選んだんですか。

まずは地理的理由。つまり、アフリカとユーロッパとユーラシアの交差する場所がイスラエルだ。そして、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教の聖地であるという歴史的理由。つまり、あそこは世界のヘソなんだ。どうせやるなら、まずヘソから始めなくちゃ。

――あの時は、エルサレムだけでなく、ネゲヴ砂漠まで行って吹いたんですよね。そういった体験は、その後の音楽家人生にもかなり影響を与えたんでしょうね。

だから今こうなってるんだよ。天下晴れての無一文。あそこで吹いてなかったら、今ごろ黒塗りの車に乗っている。

――音楽にすべてを捧げきった人生ですね。

二十歳でミュージシャンになろうと決めた時、俺はこう思ったんだ。黒人ジャズに魅せられて、これからミュージシャンになるわけだけど、男一匹、黒人のジャズの物まねをして終わることほどなさけないものはない。それなら、元々好きだったエンジニアになった方がいい。絶対にいつか、黒人の物まねじゃない自分の音楽をやると誓った。だから、いくら即興演奏がうまくなっても、自分では納得していなかった。

80年代にIMAバンドを作った理由は、20世紀のすべての音楽を日本人の自分なりに統合してやろうと思ったからなんだ。フリージャズ、ファンク、パンク、ロック、日本の民俗音楽…そういったすべての要素を混ぜ合わせて、我々日本人がどんなグルーヴの音楽を作れるのか、挑戦したんだ。実際、その目論見以上の反響があったけど、それは元々俺にとっては最後のまとめだった。だからIMAバンドも90年代初頭にはおしまいにして、次に行ったんだ。つまり、21世紀の音楽をイメージするってこと。

21世紀の音楽と20世紀の音楽の決定的な違いは何か……その一つは、ネイチャーだ。人類史上最大の都市文明が開化したのが20世紀であり、その音楽は都市の中で生まれ、消費された。音楽は人間どうしのコミュニケイション・ツールになった。99.9%の20世紀音楽は、客に聴かせるための音楽だった。神に向かって演奏したり、火山に向けて祈るような音楽は、20世紀には誰もやらなかった。そこで、“自然との関係性を考えた音楽”というテーマが俺の中で出てきたわけだけど、それは、昔から目指していた“日本人ならではの音楽”というもうひとつのテーマとも矛盾することなく、そのまま「地球を吹く」プロジェクトにつながっていったんだ。当然テクノロジーの発達を認めた上でなくては新しい表現もないと思うので、トランペットもエレクトリックにしなくてはいけないし、デジタル・サウンドもはずせない。

――じゃあ、そんな21世紀音楽の探求は、今後は日本を拠点にして続けてゆくわけですね。日本は退屈じゃありませんか。

アムスでいろいろやり尽して、今、次にやりたいことがはっきり見えているからちっとも退屈じゃない。これまでは、こうしたヴィジョンについて、周りのミュージシャンたちにも一切話してなかったけど、これからはどんどん語りかけてゆく。ネイチャー、スピリット、テクノロジーという三位一体をベースにした新しい音楽を作ろうと呼びかけてゆきたい。世界中、まだ誰も言ってないんだから。めんどくさいから、本当は黙って一人でやってればいいんたけど、あまりにも、音楽が売れないだのだめだのといった話ばかり聞くだろう。そんなもん、21世紀の音楽をしっかり作れば、みんなハッピーになるじゃん。

21世紀の音楽をどう作るか…それをこの20年間俺は一人でずっと、トライ&エラーでしこしこ続けてきたわけだし、少しでも参考にしてもらいたい。20世紀音楽の残り火をやってる暇があったら、これからの音楽を作るべきだよ。それができたら、音楽はまたわんさか売れるんじゃないの? 20世紀は、リアル・ストリートでの音楽家たちの出会いが新しい音楽を生み出し、成功した。21世紀はリアルな中心地がなくなった。すべて焼野が原で、サラ地になっている。ということは、今の若いミュージシャンたちにとってはめちゃくちゃチャンスがあるはず。次の可能性が無限にあるんだよ。

――具体的な手立てとしては、たとえば?

俺が一番惹かれるのは、ヴァーチャル・ストリートの発想。つまり、ネット上で未知のミュージシャンたちが出会うということ。出会いだけでなく、レコーディングもネット上でできる。しかも、微々たるコストで。シベリアだってブラジルだってどこの音楽家とも自由に出会い、音楽を作れる。そういった地球規模でやろうという意志があるかどうかだけが問題になる。実際、俺は既にやっているし。無数の出会いがあり、無数の作品を作れる。そこから、次の可能性も出てくると思うよ。

今、ミュージシャンたちに俺が特に言いたいのは、音楽が売れないとか愚痴ってないで、大元をイメージしろってこと。自分が出したい音を120%出しきること、自分にとって一番気持ちいい演奏をすることが、いつだって何よりも大事なんだ。ミュージシャンが本当に体の底から気持ちいいと思って演奏してなかったら、聴く側にもわかるし、関係もダレてくる。そうすると、音楽に使う金があったら、他のものに使いたいと思うのは当然だろう。音楽が売れなくなった本当の理由は、ミュージシャンひとりひとりが、自分に嘘をつくようになったことなんだよ。

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EVENT INFORMATION

ライヴ~“Toshinori Kondo plays Standards~あなたは恋を知らない”

2015.06.29(月)
OPEN 18:30/START 19:30
渋谷 CLUB QUATTRO
ADV ¥5,000/DOOR ¥5,500(1ドリンク別)
近藤等則

[一般発売]2015年4月25日(土)~
チケットぴあ、イープラス、ローソンチケット、渋谷クラブクアトロ店頭

[プランクトン優先予約]2015年4月15日(水)~
セット券:(CD + チケット) ¥7,500(¥8,024のところ)
※取り扱い:プランクトンのみ
※プランクトンチケット予約:03-3498-2881

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新作アルバム発売記念イベント「トーク&ミニ・ライヴ」

2015.05.10(日)
OPEN 14:30/START 15:00
東京・八重洲 Gibson Brands Showroom TOKYO(2F)
※定員に達したため予約受付は終了しました。
近藤等則、立川直樹

新作アルバムのハイレゾ音源の試聴有り
INFO:プランクトン 03-3498-2881(平日11~19時)

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近藤等則 東北&札幌  LIVE & 映画「地球を吹く in Japan」上映ツアー! RAF-REC presents 近藤等則 LIVE

2015.05.14(木)
OPEN 20:00
山形 SANDINISTA
ADV ¥3,000/DOOR ¥3,500
BALUS SESSIONS(front act)、近藤等則

INFO:RAF-REC 023-645-5565
メールでのチケット予約:info@rankandfilerec.com

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フラット9周年記念ライブ

2015.05.15(金)
OPEN 20:00/START 20:30
八戸 フラット
ADV ¥3,000/DOOR ¥3,500(共に1ドリンク代 別途¥500)
TRUEANDOIKO + maitadaisuke(front act)、近藤等則

TEL:0178-44-3898

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映画「地球を吹く in Japan」上映&トーク

2015.05.16(土)
OPEN 13:00/START 13:30
八戸ポータルミュージアム はっち シアター2
CHARGE ¥1,000
近藤等則

TEL:0178-22-8228

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寺下観音・潮山神社 例大祭 奉納ライブ

2015.05.16(土)
START 19:30
青森 潮山神社境内
ENTRANCE FREE
近藤等則

TEL 0178-88-2027

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映画「地球を吹く in Japan」上映&ライブ

2015.05.17(日)
OPEN17:30/START 18:00
岩手 専立寺
ADV ¥3,000/DOOR ¥3,500
近藤等則

TEL 090-6251-1357(米山)

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ライブ@札幌 くぅ

2015.05.20(水)
OPEN 19:30/TART 20:00
札幌 くぅ
ADV¥3,500/DOOR ¥4,000
近藤等則
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映画「地球を吹く in Japan」上映&ミニライブ

2015.05.22日(金)
OPEN 19:00/START 20:00
札幌 Provo
ADV ¥3,000/DOOR ¥3,500
Keisuke Uemura <宇宙文明>(front act)、近藤等則
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大阪公演

2015.06.18(木)
※調整中
大阪・心斎橋 BAR & SHOW SPACE「火影」
※調整中
近藤等則

INFO:06-6211-2855

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三重公演

2015.06.19(金)
OPEN 18:30/START 19:30
三重、四日市 ライブハウス 「Galliver」
ADV ¥3,500/DOOR ¥4,000
近藤等則

INFO:059-346-7321

詳細はこちら

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名古屋公演

2015.6.20(土)
OPEN 18:00/START 19:00
名古屋TOKUZO
ADV ¥3,500/DOOR ¥3,800
UP-TIGHT(front act)、近藤等則

TICKET:チケットぴあ、ローチケ、イープラス
INFO:052-733-3709

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浜松公演

2015.6.21(日)
OPEN 18:30/START 19:00
浜松 ZOOT HORN ROLLO
ADV ¥3,500/DOOR ¥4,000
近藤等則、望月治孝(alt sax improvisation)、袴田浩之(シネマヴァリエテ)映像作品上映

INFO:053-458-1388

詳細はこちら

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【近藤等則 ニューアルバム発売記念】黒田征太郎が描く「Toshinori Kondo plays Standards~あなたは恋を知らない」原画展

【インタビュー】近藤等則、アムスにいた18年間と新作を語る interview150507_kondo
〜2015.05.23(土)
OPEN 18:00/CLOSE 1:00 ※日曜・祝日休
渋谷 Li-Po

近藤等則さんが長年の盟友であるイラストレーターの黒田征太郎さんにニューアルバムを送ったところ、直筆のコメントとともに、なんと! 収録曲1曲ずつ(全10曲)に、黒田さんが絵を描いて送ってくださったとのこと。そこで今回、ニューアルバム発売記念として、急遽渋谷のBAR「Li-Po」で黒田征太郎さんの絵の原画を展示中! 音源とあわせて是非足を運ぶべし。

TEL:03-6661-2200

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近藤等則 オフィシャルサイト
公認ファンサイト「KONDOMANIACS」

Release Information

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