「一億総ミュージシャン」みたいな可能性を
含んだ楽しい場が広がりつつある

──アルバムに関連付けてリミックスのことを聞かせてもらえますか。まずは、オープン参加でリミックス曲を募集することになった経緯を教えてください。

経緯は単純で、サンレコ(サウンド&レコーディング・マガジン)からそういう企画をやっていると聞いて、面白そうだなと。いざ蓋を開けてみると、リリースしていない曲のステムデータを既に聴かれているっていう状況が面白くて。DAWを持っていない子は「とりあえず細美のアカペラだけを聴いてみたけれど、すげー!」ってツイートしていて、そういった反応も面白かったな。

──どう作っているのかが分かってしまうと、気恥ずかしい気持ちもありませんか。

俺はヴォーカルのピッチ修正をしていないから、そこは「どうよ?」っていう感じなの。外れていたりしているところもよく分かってしまうけど、むしろ、そこはこだわりのポイントだから、全然裸で聴かれるのは恥ずかしくない。俺は今作でほとんどエレキギターを弾いていないんだけれど、それは自分のヴォーカリストとしての欲が出てきたからでもあって。オケがミニマルになるほど、歌はふくよかに聴こえるでしょう。だから、歪んでいる音は一本あればいいやと思ってギターを置いたの。その代わりに入れたものがソフトシンセなんだよね。

──1曲目の“Thirst”を課題曲に選んだ理由は?

“Thirst”の最終的なアレンジは、俺が結構イニシアチブをとって完成させたんですね。何週間もかけて、ここは16小節変化なく押し切ろうとか、チラ見せでシンセを入れようとか。最後まで足し算と引き算を繰り返して仕上げたものに対して、どんなリミックスが出てくるのか、すごく聴いてみたかった。自分の中では完璧に仕上げたつもりだから、それを上回ってくるようなアレンジに一番出会ってみたかった曲というか。

the HIATUS – “Thirst(Keeper Of The Flame SPECIAL STUDIO LIVE version)”

──the HIATUSのリミックス曲ってまだ無かったですよね。

うん、やったことがない。

──今回はオープン参加だから、不特定多数のリミキサーの作品の中から優秀作品が選ばれるわけで。一般的にリミックスは、特定のリミキサーにオファーしますよね。

やってもらえるのであれば、Serphにやってもらいたいですね。

──おお。

全然面識もなければ、リミックスをやっているのかどうかも分からないけれど、Serphだったらどうするのかは聴いてみたかったりする。

Serph – “session”

──リミックスは音楽の文化として重要な要素だと思っていて。自分たちの想像を超えた作品に対する楽しみだけでなく、リミックスという手法をライトユーザーにも伝えたいような想いもありますか。

俺はクラブでDJをやっているし、もともとダンスミュージックも好きなんですよ。ダンスミュージックはオリジナルバージョンよりも、逆にリミックスの方が多くプレイされてたりするから、リミックスは当たり前に触れてきたものだけれど、バンド系の曲を誰かがリミックスしても、ライブで演奏されないから浸透しないよなと思うところはある。

──あぁ、たしかにそうですね。

今回のリミックス公募で面白いなと思ったところは、今はMacを買うとGarage Bandが付いていて、Garage Bandがあれば一応リミックスが出来るじゃん。言うなれば、俺たちはプラモデルとかジオラマとかを作って提示しているけれど、そうやって音楽を作ったことのない人たちがやってみることで、「この音、実はすごいんだな」とかをよりよく分かるというか。

──なるほど、体験することで。

そうそう。俺は巨大な産業としての音楽が崩壊しつつある中で、平たくなった場所はすごく楽しい遊び場になっていくと思うんですよ。今は新人発掘で勝ち抜いて、契約を結んで、巨額を投じた宣伝をしてデビューするという流れじゃなくなっている。自分たちの遊び場として、家で作った良い音楽を気軽にYouTubeにアップして、その再生回数が軒並み上がっていく。その後、〈SUB POP〉みたいなレーベルからオファーが届くっていう(笑)。そんな道筋が主流になってきた今、俺にとってはシーンが活性化する「一億総ミュージシャン」みたいな可能性を含んだ楽しい場が広がりつつあって、そこに「みんなリミックスやってみ?」ってオープンソースを放り込むのは、すごく自分の理にかなったやり方なんだよね。

──最後に、細美さんはthe HIATUSのフロントマンである一方、細美武士というソロアーティストとしてライブハウス大作戦に参加していますよね。宮古、大船渡、石巻、福島といった被災地に何度も足を運んでいく中で出会った、バンドとはまた違う同じ志を持ったチームと仲間の存在がとても大きいと感じました。バンドと個人、両方の活動を往来するようになって、何か変化はありましたか。

フィードバックというよりは、自分の大事にしたい仲間や友達というか。俺はあまり友達付き合いが得意ではないから友達が多くはないけれど、バンドだけが自分の居場所だったのがそうではなくなった今、「バンドがないと生きていけない」みたいに重たく考えなくなった。もちろんバンドはめっちゃくちゃ大事なんだけど、なんていうか、すがりつかなくなったっていうのかな。

──肩の力が抜けた、というニュアンスで合っていますか。

そうそう。それこそ最初に話した、自然体のフォームで腰を入れたパンチを打つみたいなことをthe HIATUSで出来るようになったのが一番大きい。これから何がどうなるかは分からないけれど、今の俺にはコイツらと楽しく飲めていればいいやと思える場所があって。俺はすがっていたからさ、the HIATUSの存在に。ふっと緩められたというか。逆にいえば、全てに同じくらいの強さを持てるようになった。これがかなりバンド内の空気を良くしてると思う。

──お話を聞いてきて思うのは、音楽も音楽以外の考え方も変化を恐れない人なんだなって。

「楽しく続いていくうちは最高に楽しいことをやろうぜ。駄目になったら、それはそれ」っていう考え方の方が、逆に物事が続いてったりするじゃん。もちろん続けることは大切な意味があるけれど、それが目標になっちゃうと挑戦も冒険もできなくなっちゃうからね。

──僕も同感です。いいコンディションで5月からのツアーを迎えられると思いますし、ライブが楽しみですね。the HIATUSにはアルバムのリリースツアーをタイトスケジュールで周るイメージがありますけど、今回は7月までに41カ所もこなすんですね。

ツアーなのにウィークデーに東京に戻ってくるのは、旅している感じが全然しないんだよね。車で走り回って、その土地の美味くて安いものを探しにいく。夜はそこで待っている仲間たちと音楽を楽しんで、酒を飲んで寝るみたいな3ヶ月。こんな人生、なかなかないでしょう。

──すごく羨ましいですよ。

ぶっちゃけると、俺はそれがやりたくて生きているところもあるんだよね。いつまで出来るか分からないことだし、毎回これが人生最後でも後悔しないというツアーをやりたくて生きているから、今回も長ければ長いほどいいんですよ。今、俺の考えるライブは祭りだから、日本各地でみんなと祭りをやるという感覚が楽しみでしょうがない。小難しいことを考えず、嫌なことも全部置いてくればいいと思うんだ。きっと楽しめるはずだから。

text&interview by Shota Kato[CONTRAST]

Event Information

ARABAKI ROCK FEST.14
2014.04.27(日)@みちのく公園北地区 エコキャンプみちのく

Keeper Of The Flame Tour 2014
2014.05.08(木)@千葉LOOK
2014.05.11(日)@甲府CONVICTION
2014.05.13(火)@HEAVEN’S ROCK Utsunomiya VJ-2
2014.05.15(木)@Zepp Nagoya
2014.05.16(金)@Zepp Nagoya
2014.05.18(日)@高松オリーブホール
2014.05.19(月)@松山SALONKITTY
2014.05.22(木)@浜松窓枠
2014.05.23(金)@奈良NEVERLAND
2014.05.26(月)@Zepp Tokyo
2014.05.27(火)@Zepp Tokyo
2014.05.31(土)@大分T.O.P.S Bitts HALL
2014.06.01(日)@Zepp Fukuoka
2014.06.03(火)@KYOTO MUSE
2014.06.04(水)@福井響のホール
2014.06.07(土)@横浜Bay Hall
2014.06.09(月)@いわきclub SONIC
2014.06.10(火)@水戸LIGHT HOUSE
2014.06.12(木)@福島Out Line
2014.06.13(金)@南相馬Back Beat
2014.06.15(日)@Zepp Sapporo
2014.06.16(月)@旭川CASINO DRIVE
2014.06.18(水)@仙台Rensa
2014.06.19(木)@仙台Rensa
2014.06.24(火)@秋田Club SWINDLE
2014.06.25(水)@盛岡CLUB CHANGE WAVE
2014.06.27(金)@KLUB COUNTER ACTION宮古
2014.06.28(土)@石巻BLUE RESISTANCE
2014.07.01(火)@Zepp Namba(OSAKA)
2014.07.02(水)@Zepp Namba(OSAKA)
2014.07.04(金)@岡山CRAZYMAMA KINGDOM
2014.07.05(土)@BLUE LIVE広島
2014.07.07(月)@松江canova
2014.07.09(水)@佐賀GEILS
2014.07.11(金)@長崎NCC&スタジオ
2014.07.15(火)@長野CLUB JUNK BOX
2014.07.16(水)@新潟LOTS
2014.07.18(金)@富山MAIRO
2014.07.19(土)@金沢EIGHT HALL
2014.07.22(火)@新木場STUDIO COAST
2014.07.23(水)@新木場STUDIO COAST



Release Information

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