黒にしか出せない優しさ。逆に、潔白潔癖なものには優しくない感じがある

──「深く潜る」というお話がありましたけど、the HIATUSの音像然り、アルバムのアートワークも、全体的な色として黒がベースになっている感じがありますよね。

うん、まさに。

──the HIATUSのイメージカラーとして、黒は特別に意識している色ですか。

黒は特別な色ですね。共感覚はそんなに意識していないけれども、誰でも音楽を聴いたら何色なのかを感じるじゃないですか。俺は黒とか青黒いものが好きで、それは何だろうなと思うと、俺の青春が90’sだったから、低音が強いものが好きという感じなんですよ。ただ、俺は自分のレコード棚に入っている音楽を延々と聴いて歳をとっていくタイプではないから、新しいものを聴いているうちに、さっき話したポストチルウェイブ、ダブステップ辺りから、かなり面白いことになってきたと感じているんだよね。今はそういうものに惹かれながらも、自分の出所の90’sに着地するから黒になるんだと思う。

──『Keeper Of The Flame』を説明するのにカラフルという言葉を使いたくなりますけど、厳密には、黒でベタ塗りされた上に広がるカラフルな音世界だと思っていて。

そう、色としては濃いよね。

──逆に、白には惹かれないんですか。

白で興味のあるものといえば、大友克洋の漫画じゃないかな。あの人が描く背景は白いでしょう。あとは、映像がすごく綺麗でハイファイなものもあまり好きじゃなくて。デヴィット・フィンチャーのすごくHi-Fiに見えるけれども、実はローファイで歪んでいるような、ああいった手触りじゃないと嫌だというのはある。食べ物もそうだけど、つるっとした食感は嫌なんですよ。少しざくっとした歪みがないと。でも、餅は例外的に好きなんだよな(笑)。

──ははは(笑)。the HIATUSの黒には不気味な感じはないんです。浸かっていられる黒の空間というか。「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」って分かりますか。

いや、分からないな。

──100%暗闇の空間を2時間くらい体験するワークショップというか。全盲のスタッフがアテンダーとして案内してくれて、視覚以外の五感を頼りにして過ごすんです。暗闇なのに守られているような、安心できるんですよね。

俺は黒にはすごく強いイメージを持っていて。例えば、何も悪いことをやっていない神父さんもいれば、元死刑囚だけど途中で神に出会って神父さんになるのでは全然違うでしょう。そういう存在に対する憧れがありますね。そういう人にしか出せない優しさみたいなものがすごく好き。90’sの代表的なカート・コバーンは愛に溢れているのが伝わってくるけれど、ああいったオルタナ・グランジをやっていたじゃん。逆に、潔白潔癖なものには優しくない感じがあるんですよ。2010年代の音楽は面白くて、久々にリスナーとしてわくわくしているけれども、今でも90’sは見つめている部分ですね。

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