成当初からthe HIATUSのサウンドの軸にあるのは、このインタビューでフロントマンの細美武士が明かしているように、自身が影響を受けてきたオルタナティブロックなどの90’sのエッセンスだ。それから作品のリリースを積み重ねるにつれて、ポストロック、マスロック、エレクトロニカ、テクノなどの影響と相まって、the HIATUSのサウンドは重厚なアンサンブル、多彩な音色とリズムアプローチを内包したオリジナルなものへと変化してきた。

多種多様な音楽からインスピレーションを得た唯一無二のサウンド。それがひとつの節目を迎えたのは、2011年にリリースされた3rdアルバム『A World Of Pandemonium』だった。リリースツアー後には同作の世界観をさらに発展させるため、総勢17人のオーケストラ編成によるホールツアーを敢行。壮大なプロジェクトの完結は、the HIATUSが新たな音探しの旅に繰り出すスタートでもあった。

2年4ヶ月に及ぶ長い旅路を経て発表された4thアルバム『Keeper Of The Flame』には、the HIATUSが歩んできた足跡、そして現在進行形の彼らが凝縮されている。サウンドとしては、2010年代のトレンドのひとつであるポストチルウェイブなどのダンスミュージック的アプローチを咀嚼。アートワークの漆黒をベースに広がるカラフルな音世界の中で響く細美のヴォーカルも、新境地を感じさせる。収録曲“Thirst”のリミックス曲のオープンコンペを実施していることからも、新たなthe HIATUSが浮き彫りとなった意欲作であることが分かるだろう。

変化を恐れずに受け入れるthe HIATUSは、まるで音楽を介した旅を楽しんでいるかのよう。昨年夏に行われたZepp Tokyoでのライブを振り返り、これから繰り出すリリースツアーまでを語ってくれた細美の言葉には、漲る自信だけでなく覚悟も滲んでいた。

Interview:細美武士(the HIATUS)

スイングスピードが速いストレートを、
自然体のフォームで打てるようになった

──去年の8月にZepp Tokyo2日目のライブを観させていただきました。あの日まで僕はthe HIATUSの作品を通して聴いたことも無かったんですね。まずははじめてライブを観た率直な感想をお伝えしたくて。心を動かされました。ありがとうございます。

いえいえ、とんでもない。

──あの場にいた約2000人のオーディエンスには、曲が良い、アレンジが上手い、細美さんのヴォーカルが好きとか様々なツボがあると思うけど、僕が心を動かされたのは、ステージ上の皆さんから感じた熱量なんです。

ありがとうございます。去年の8月だから『Horse Riding EP』のツアーだよね。

the HIATUS – “Horse Riding”

──そうですね。後日、細美さんのブログを読んでみたら、あの日のライブに手応えを感じたと綴っていたので、『Keeper Of The Flame』の話に入る前にその辺りのことを手掛かりとして聞かせてもらえますか。

Zepp Tokyoには幾つか強烈な印象が残っているライブがあって。以前、声が出なくて点滴を打ってステージに立ったこともあったんですよ。あのライブも良かったんだよな。

──2階席から観ていて、とにかくステージとフロアの一体感がすごくて。

去年のあのライブはすごく伝わったなというか。3枚目のアルバム『A World Of Pandemonium』がいわゆるポップミュージックではない作品だったから、あと少しの部分で伝わらないなと思っていた部分があって。あの日のライブはオーディエンスに「もっと来いよ」という不満な感じが無かったというか。お互いがとても満たされた幸せなライブだったと思っていて。MCで何を言ったのかは覚えていないのだけれど(笑)。

──たしか、充実感が言葉に乗っていましたよ。

あぁ。オルタナをやり始めた時は、「暗い」「分かりにくい」という声があって、若干構えてしまったんです。力技で分からせてやるみたいな余計な力が抜けたんじゃないかな。すごく文字にしづらいかもしれないけど、スイングスピードが速いストレートを自然体のフォームで打てるようになったというか(笑)。

──1番馴染むフォームで。

そうそう。筋肉で力任せに殴るよりも、腰を入れて体重の乗ったストレートの方がズドンと重いじゃないですか。

──オルタナもグランジも緊張感のある音楽ですよね。例えば、「火傷する」という表現にも、熱で火傷をする場合もあれば、すごく冷たい氷を触っても火傷をすることもある。その感覚に近い音楽だと思うんです。

最近は安定して良いライブが出来ているけれども、もっと陰に転がり込んでしまって、どうにもならなくなってた時もあるんですよ。ステージの上で、「客席のみんなが俺のことを嫌いなんだ」としか思えない瞬間があったりして。パニック障害というか、今この瞬間、全員が俺を憎んでいると思ってしまう。みんなチケットを買ってライブに来てくれているのだから、そんなはずはないのにね。

──一度そう思ってしまうと抜けられなくなってしまうんですか。

キーボードの伊澤一葉が前に一度、「ヤバいな。細美、ちょっとパニックになっているな」と気付いて、キーボードの場所から離れてステージの端まで行って、俺の視界に入るように「大丈夫だよ」ってずっと手を振ってくれたことがあるんです。そのおかげでライブに戻れたんですよね。そういう時期もあったけど、なんとか抜けてきました。振り返ってみると、<The Afterglow Tour>というホールツアーを終えてからずっと調子が上がっています。「なぜだろう?」と不思議に思うけれども。

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