ンガーソングライター、セイント・ヴィンセントことアニー・クラーク。同郷のポリフォニック・スプリーやスフィアン・スティーヴンスのバックバンドでギタリストとしてキャリアをスタートさせた後、2006年に〈ベガーズ・バンケット〉と契約。翌2007年に1stアルバム『マリー・ミー』をリリースした後、4ADに移籍し2ndアルバム『アクター』を発表。ベックやグリズリー・ベアやアーケイド・ファイアと言ったアーティストから厚い支持を集める中、2011年に発表した前作『ストレンジ・マーシー』が全米19位を獲得。 2012年には自身のキャリアを押し上げる事となった、デヴィッド・バーンとのコラボ作『ラヴ・ディス・ジャイアント』が 名立たる音楽メディアの年間ベスト上位にランクイン。<第55回グラミー賞>へノミネートされるなど話題をさらった。

そんな彗星のごとく現れた彼女が「葬式でもかけられるパーティ・レコードを作りたかったの」と語る待望の新作『St. Vincent』は、これまでにも彼女の作品を多く手掛けてきたジョン・コングルトンがプロデュースを担当。パーカッションにマッケンジー・スミス(ミッドレイク)とホーマー・スタインワイス(シャロン・ジョーンズ・アンド・ザ・ダップキングス)を迎えた音作りは、アルバム全体を通して跳ね、時には沈み、陰と陽を自由自在に行き来しながら進む。リズムに乗る荒々しくもカラフルなギターラインは、知性によって上品にまとめあげられている。ビジュアル・声・歌詞の世界観が最大限に発揮された今作は、何も知らない無垢な人間にはあまりに危険である。そういった、ある種カルト的な魅力を内包した恐ろしいアルバムだ。

今回はそんな今作の制作の様子や、アルバムに対する思い、音作りの背景に迫った。

Interview:St. Vincent

──アルバム制作全体を通して大切にしたことを教えて下さい。

全ての曲にグルーヴを持たせること。あとは、骨格だけじゃなくて、曲にちゃんとハートを持たせることを心がけたわ。今回は、いつも以上にファンキーなレコードを作りたかったの。

──そのファンキーな音、もしくは今作の音づくり全体において、最も影響を受けた人やグループはいますか?

今回は、特にヒップホップのグルーヴに影響を受けてるの。あとは、パーラメントとかファンカデリックとかに沢山影響を受けてるわね。

──どのように影響されたのでしょうか?

彼らのレコードは本当に沢山聴いてきたの。だからサウンドそのものに影響を受けてると思う。今回のアルバムのためだけに聴いたんじゃなくて、これまでもずーっと聴いてきたから。昔のファンク・ミュージックはよく聴くの。だから、彼らのレコードが今回のアルバムのための新しい発見ってわけではなかったのよ。

St. Vincent “Birth In Reverse” (OFFICIAL AUDIO)

──今作の歌詞の基本コンセプトを教えて下さい。

私、人間が実際はどんな存在なのかっていうことに興味があって、それが歌詞の全体的なテーマよ。人間の複雑な生態や、お互いに影響を与えあう様が生き物としてスゴイなって思う。ロマンチックな部分よりも、そういう部分に興味があるの。

──ジョーン・ディディオンにも影響を受けているそうですね。

そう。彼女の本は沢山読んだわ。彼女の本には、さっき言ったような人間の生態について書かれてるの。その他では、デイヴィッド・フォスター・ウォレスも読むし……。あとは誰がいるかしら? ローリー・ムーアからも影響を受けてると思う。

──数々の経緯を経て約2年半ぶりのリリースですが、セルフタイトルにされた理由は?

マイルス・デイヴィスの自伝の中で彼がこう書いてたの。“ミュージシャンにとって一番大変なのは、自分のサウンドだと認識できる音を奏でることだ”って。本当にそうだなって思ったし、自分らしいヴォーカルで歌うって、確かにすごく難しいこと。でも、今回のアルバムではそれが出来たの。だからセルフタイトルにしたのよ。

──今作におけるプロデューサーのジョン・コングルトンとの制作はいかがでしたか?

彼は私と同じテキサス出身だからすごく気が合うし、何度も一緒に作業してる。既に沢山の時間を一緒に過ごしてるから、とにかく心地がいいの。前に作業した時に、彼となら今回もベストな作品が作れると思った。だから彼に依頼したのよ。ジョンは本当に耳が良くて、音の扱いがすごく上手なの。判断力もあるから、私がどこまで掘り下げるべきか分からなくて永遠に判断ができくなりそうなときに、良いところでストップをかけてくれるのよ。

次ページ:「葬式でもかけられるパーティ・レコード」の意味するところとは?