2月18日(土)より、映画『みうらじゅん&いとうせいこう 20th anniversary ザ・スライドショーがやって来る!「レジェンド仲良し」の秘密』が公開となった。これは様々な分野で幅広く活躍するイラストレーターのみうらじゅんさんと、作家・タレントのいとうせいこうさんが1996年から始め、昨年行われた第13回で20周年を迎えたイベント<ザ・スライドショー>の軌跡を、過去のイベント映像や本人のインタビュー証言などで、お二人の出会いから追ったドキュメンタリームービー。

<ザ・スライドショー>は、みうらさんが集めた「これは面白い」と思われる写真を、お二人の相棒であるスライドプロジェクター“スライ”でスクリーンに投影、それにひたすらいとうさんがツッコミまくるという、何ともシュールなイベント。しかしこのイベントが20年も続き、さらにこうしてドキュメンタリームービーとして公開されることとなったのは、何かお二人の関係やショーで披露されるボケとツッコミの構図、そしてイベント自体に大きな秘密がありそうです。今回はみうらさんといとうさんに、この映画で描かれたものへの思いや<ザ・スライドショー>の真実を、インタビューよりさらに深く語っていただきました。

Interview:みうらじゅん&いとうせいこう

面白かったらいい、面白くなかったら困る。この映画にあるインタビューは、その変遷があるんです(みうらじゅん)

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——完成されたものを見た感想はいかがでしょう? 20年もの軌跡というと、ちょっと照れくささみたいなものもあったのではないでしょうか?

みうらじゅん(以下、みうら) 確かにね。時系列から考えると、当然若いころのものはすごく恥ずかしいだろうな、と(笑)。でも一方で、このイベントは始めて20年の歴史がある。それをちゃんと時系列でネタやトークなんかもうまくはめ込んでいるんです。だから全体を通して自分が逆に気が付かなかった、節目、節目を改めて知りましたね。

いとうせいこう(以下、いとう) 最初にこの企画を聞いたときは「そんなものをやってどこが面白いんだ?」って二人で言っていたんですよ(笑)。でも基本的にはドキュメンタリーフィルムって面白いからね、自分を自分のことじゃないように見ちゃう。“あっ、この二人がこんなこと考えていたんだ”って。例えばみうらさんのことは、俺は全くインタビューで何をしゃべっていたかは知らないから、「みうらさん、こんなことを考えていたんだ。」とか、逆に「みうらさん、同じこと考えていたな。」とかいう風に見るわけです。

しかもそれを笑いにして「“ボケ部分”のほうは、センスでこういう風に考えるんだ。」という風にも拡大解釈できるし、見方がいろいろある感じだったので、「これは僕じゃない人間が見ても、きっと面白いんじゃないか。」と思いましたね。そういう印象がありますね。

——映画を拝見しての印象ですが、若干みうらさんからいとうさんへの愛情的な雰囲気を感じたんですけど、それを受け取る側としてはどのように……?

いとう いや、「また始まった」って感じ(笑)。病気がまた始まったな、前よりひどくなっているというか(笑)。

みうら 治らないですから(笑)。

いとう そこがまたみうらさんの面白いところ。まあ昔は男が女の人にあこがれるという体制だったけど、今は女性がどう見るか? 女性の感覚から見たら世の中こうなんだ、ということに対してみうらさんが代弁者になってきているから、そこはやっぱり面白いなとも思う。

みうらさんを単体でずっと追いかけて、20年も見ていたら面白いですよ、絶対。でも普通に一人の人を20年も追えないでしょ? だけどこういうやり方で、みうらじゅんという人を追うということが可能なんだと思いましたね。で、これからはどうなっていくのかなという意味の面白さもあったな。なるほど、面白かったらいいな、って。

みうら まあ結論、面白かったらいい、面白くなかったら困る、に尽きますから。この映画にあるインビューは、その変遷でもあるんです。いとうさんがいうように、俺は、もとはツッコミの人間なので、そのネタに対して分かっている上でボケているんです。それをこの映画で秘密が明かされてしまったから、今後はどうしようかな、という感じなんですけども(笑)。

このショーはアドリブでやっているけど、実は頭の中の、相手のツッコミ、ボケ、読み合いを繰り広げる緻密で熾烈な将棋。思い起こせば、当時は「今後いとうさんとの立ち位置をどうしていくか」とかいうことを話したこともあります。実はやっていることはアドリブなんですけど、そのあとよく調整をやってきまして。敬語はやめよう、とか。

いとう そうそう、強めに突っ込んじゃったほうがいいのか? いや、強めにボケたほうが面白いんじゃないか? とか、しゃべり方はこうじゃないか? とかね。

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僕がもう突っ込むこともできずに笑いころげちゃうときが、いうなれば僕のボケでもある(いとうせいこう)

——なるほど。今みうらさんがもともとツッコミの人間という話がありましたが、その意味では例えばみうらさんがいとうさんにツッコミたいとか、逆にいとうさんがボケたいという欲求はなかったのでしょうか?

みうら いや、それも一時はあったんだけど、無駄でしたね。

いとう 俺が恥ずかしがる写真をみうらさんが手に入れて(笑)。中学のときに、通信空手のテストのためにだけ撮った写真を入手していたんですよ。

みうら そう、イガグリ坊主の写真だったんだけど。でもよくよく考えると、俺も通信空手をやっていたから、それを笑える立場じゃなかったんだよね(笑)。

いとう あと、お客さんから見ても、遠近法が分からなくなっちゃうみたい。一応、僕の理性を通してみうらさんを理解しようと思っているのに、俺が狂っちゃうことによって、見方が分からなくなっちゃうらしい。

みうら このショーはあくまでいとうさんの目を通して見るショーですから。

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——なるほど。そういう取り決めが自然にできているのは不思議ですね。

いとう うん、不思議。でもみうらさんがあまりにも面白いものを出して、僕がもう突っ込むこともできずに笑いころげちゃうときは、いうなれば僕のボケでもある。で、みうらさんの勝ち。まあボケ勝ちというのか何というのか、でも本当はツッコミだよね。そういう瞬間ってときどきあるんですよ。

みうら でもね、結構頻繁にころげられると困る。次は舞台から落ちてもらうしかないから(笑)。でもまあこれまでやってきたものに、勝ち負けは存在しない、それはよかったなと思っています。「俺がこれだけ集めてきたからすごい」みたいなことはないし、それをみんなで共有してお客さんが笑う、というショーだから。自分なんて逆になくたっていい、おかしければいいわけなんですよ。

いとう でも話の中でみうらさんが寅さんみたいに“あいつもいいこと言うな、たまには”みたいにね(笑)。そういわれているけど、次にはもうひっくり返っている、みたいな感じだよね(笑)。

——それでは、あくまで先にいとうさんがバン! と先に出ることはないということなのでしょうか?

いとう うん、そうですね。みうらさんのネタがあって、それを利用して笑わせるから、僕が主導して笑わせることは構造上できないんです。「いとうせいこう×みうらじゅん ザツダン!」(文化放送)という僕がやっているラジオ番組があるんだけど、僕が「ワーッ!」とこのごろ思っていることを言って、みうらさんが返してくる、ということはやっているけど、スライドショーだとまず一枚カードが出て”いとう、どう思う?”というところから始まるから。

みうら こっちが“どうよ?”だからね。それに対していとうさんが“いいね!”と言うか“集めんなよ!”と言うかどっちか(笑)。お笑い広しといえども「集めんなよ!」ってツッコミ、聴いたことないよ(笑)。

いとう そう。だけどみうらさんが思っていることが、違う方向に主導していくこともあるんですよ。例えば道路の写真を見て「この影は何だ?」「道路が汚い」とかね。そうなると、それはみうらさんのせいじゃないから、その時点でみうらさんはオロオロし始めて(笑)。でもそこで面白いのは、みうらさんの正論。「だって、俺の道路じゃないもん。」なんてことは絶対言わない。そこは笑いの分かっている人のやり方で、「いや、だけど……。」と道路の気持ちになってみたり。そういうところに面白いボケが生まれるんですよ。

みうら 長年やってて、そうなるようになったんだけどね。本当に第1回、2回目なんかは探り探りだったんです。それができるようになってきた。その過程を表したのが、この映画”レジェンド仲良しの秘密ですから”(笑)。

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