ディオヘッドの『イン・レインボウズ』以降、音楽の作り方/出し方そのものを考えるような作品が多数登場してきたのは有名な話。だとするなら、インディー×エレクトロのクロスオーヴァー期にロンドンから登場したシミアン・モバイル・ディスコの通算4作目となる新作ワァールもまた、『2001年宇宙の』――いやいや、『2014年音楽の旅』。彼らが今の音楽の在り方について考えた作品なのだ。

2人はどこでも録音可能なポータブル・スタジオ・システムを開発すると、レコーディング前に新作の予定をアナウンス。地元ロンドンを飛び出して、カリフォルニアで観客を入れた一発録りのライヴ録音を敢行し、それを再編集して作品を完成させた。サウンド的には前作の雰囲気をより深化させた激ストイックなミニマル・テクノ。けれど観客の盛り上がりを反映するかのようにビートが徐々に高揚して、全編にはライヴ録音ならではの流れが生まれている。いち早く再現ライヴを行なった<Hostess Club Weekender>の会場でも、観客の反応に合わせてこの新作を再構築。おそらくこれから本格的に始まるツアーの中で、観客との面白い化学変化を次々と起こしていくのだろう。

そう、今回彼らが行なったのは、ライヴとスタジオ作品の境界線を取っ払おうという試み。その姿はまさに「シミアン・モバイル・ディスコ(=シミアンの移動式ディスコ)」の名前にふさわしい。ユニークな過程で作られた新作ワァールについて、ジェイムス・フォードとジャス・ショウに訊いた!

Simian Mobile Disco – “Tangents”

Interview:Simian Mobile Disco [James Ford、Jas Shaw]

――今回の新作はロンドンで作曲後に砂漠でリハーサルし、観客のいる会場でライヴ録音して最終的に3つの音源を混ぜ合わせるというユニークな制作方法を取っています。このアイディアはどんな風に生まれたものだったんですか。

ジャス・ショウ(以下、ジャス) 正直に言うと、よく分からないんだ(笑)。でもひとつ言えるとしたら、今回僕らがこのシステムを作ったのは「ライヴ・ショウをもっと面白くする」ためだったってことだね。とても限られたことしか出来ない機材だから困難を伴う部分もあるんだけど、だからこそ生まれる柔軟性に可能性を感じたんだ。レコードをそのまま再現するだけでなく、それを流した上にさらにインプロヴィゼーションを加えたりすることが前よりも簡単になった。これからライヴ・ショウがどんどん楽しくなっていくのを感じているよ。

ジェイムス・フォード(以下、ジェイムス) つまり、そのポータブル・スタジオ・システム自体を作ったことがすべての始まりだったんだ。「ロンドンのスタジオにいなくても、東京でもフランスでも、どこでだって同じ作業が出来るね」って話になって。そういう中で、レコーディングの場所に選んだのがカリフォルニアのヨシュア・ツリーだった。ここにはもともと僕らの友人が住んでいてね。前にライヴをしたこともあったから、素晴らしい場所だってこともよく知ってた。それで今回、「ヨシュア・ツリーでレコーディングしよう!」ってことになったんだよ。

――それは「スタジオで音楽をパッケージするだけじゃない楽しみ方が出来る」という今の時代の雰囲気や音楽の在り方とも関係しているのでしょうか。

ジェイムス 僕たちはもともとテクノロジーに興味のある人間だしね。そういったものに常に興奮して、それをどんどん実践していく人間でもあるから、今回のレコーディング方法に行きついたのは自然な流れだったと思う。でも振り返って考えてみると、こうやって制約のあるシステムを作って、自分たちの選択肢を減らした状態で音楽を作ろうとしたことって、実はストリングス、シンセサイザー、ラップトップ、ドラムマシーン……と、やろうと思えば何でも手に入る時代においてむしろ逆行した行為だよね。今の時代、色んなオプションをつけることが出来るんだから。ボックスがあって、横にシーケンサーがある、ただそれだけのセッティングに絞るというのは、それ自体に僕らの美意識が表われているんだ。今回は「やりたい」と思うことがあって、「こうすれば出来る」という発想があって、ただそこで使う機材が限られているから「なかなか思うようにいかない」という環境をあえて自分たちに設けてみた。だから、出てくる結果は思い描いたものとは違ったけど、逆にそれを楽しんだってことさ。この制約のあるシステムが、今回のサウンドに影響を与えたのは間違いないね。

――ライヴ・レコーディングは一回きりとあって、事前の準備が相当大変だったんじゃないかと思います。どのようにして進めていったか教えてもらえますか。

ジェイムス 実際、今回の作品では作曲作業よりも、当日に臨むためのシステムを作る方が時間がかかったよ(笑)。持ち運べる機材に制約があるということは、自分たちが持っていける音の種類も限られるからね。「ドラムの音はこうしよう」、「ベースの音はこんな感じにしよう」って自分たちのイメージに基づいて、最適なモジュールだけを現地に持っていく必要があった。「これだ」って音を見つけるまでが大変だったね。そのモジュールを探して、それをセットアップして、実際に使いこなせるような状態にたどりつくまでが本当に大変だった。それがシステム・デザインの部分にあたると思うんだけど、その過程が数か月かかっていて、実際の曲作りは数週間で終わったよ。今回のアルバムは3つのレコーディングを合わせたものになってるんだ。まずはロンドンで曲を書きながら録ったもの。2回目がビデオにもあった砂漠での星空の下で、岩場で録ったもの。そして3回目はオーディエンスを入れて録ったライヴ・レコーディングだね。

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