年の<フジロック>出演に続いて今年の2月には早くも単独再来日を果たし、新木場スタジオコーストにて3日間のライヴを行なったナイン・インチ・ネイルズ(以下、NIN)。<フジロック>でも、その後に行なわれた全米ツアーでも、凝りに凝った仕掛けの舞台演出が話題を呼んだが、年明けからはバンド編成を4人に絞り込み、より身体的かつ直感的なパフォーマンスへと切り替わった。

最新形のNINお披露目となった今回の日本公演は、メンバー全員が目まぐるしく担当楽器を持ち替えたり、どの日も曲目が大きく変更されて完全に違うセットリストになったり、さらに2日目にはトレントの妻マリクイーンが飛び入りして別プロジェクトであるハウ・トゥ・デストロイ・エンジェルズとしてのナンバーも披露するなど、新たな刺激に満ちた内容のショウが繰り広げられた。バンドはその後、オーストラリアでクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジとの共同ツアーを展開し、続いて南米各都市で行なわれたロラパルーザにも参加。この後はヨーロッパに遠征し、そして夏には本国アメリカでサウンドガーデンとの共同ツアーも予定されている。

90年代オルタナティヴ・ロック不朽の名作『ザ・ダウンワード・ザ・スパイラル』から20年を経て、今なお精力的に活動を続けるのと同時に、安定的な位置に留まることをよしとせず、自身の創造性を常に次の段階へ押し進めようと飽くなきチャレンジを続けるトレント・レズナー。そんな彼に、現在について、日本についてなど訊いてみました。

Interview:Nine Inch Nails[トレント・レズナー]

──昨年の<フジ・ロック・フェスティバル>同様、今年からのツアーも日本がツアーのスタート地点となったわけですが、この国を出発地に選ぶのには何か特別な理由があったりするのでしょうか?

なぜそうなったかって? 自分自身で経緯を把握してるわけではないけど、それについて不満がまったく無いことは確かだよ。ツアーの開始前だから早目に来日して、ここに数日長く滞在できるわけだからね。俺だけじゃない、バンドのメンバーも含めて、みんな日本が大好きなんだ。だから、こうしてまたやって来ることができて嬉しいし……。どうしてこういうツアー日程になったかはよくわからないけれど、とにかく大歓迎さ。

──日本のオーディエンスはファースト・テストにちょうどいい、という感触を持っていたりしますか? あるいは世界中から注目されるプレミア・ショウを極東の地で行なうことで、欧米ファンを焦らす感じを出すのも作戦のひとつとか?

日本人オーディエンスがテストにちょうどいい、とかは思っていないよ。というのも、概して日本の観客には他の国にはない礼儀正しさが存在することに気付いたんだ。彼らには、ライヴに集中しようとする注意力がある。客席を見渡した時にライヴ中ずっとスマートフォンを掲げているような人もほとんどいない。ただ、反応が読みづらいところもあるね。初めて日本に来た時のことを今でも覚えている。「ちゃんとスピーカーから音は出てるのか?」と思ってしまったくらい、オーディエンスが演奏中ずっと礼儀正しく静かに聴き入ってたんだ。物音ひとつ立てずにね。あんなのは初めてのことだったよ。他の国とはまったく違う。文化の違いもあるんだろうね。だから反応が読みづらいってことはある。自分たちが最悪の演奏をしても礼儀正しく拍手をしてくれるだろうし。その気遣いには感謝しているよ。

Nine Inch Nails<Fuji Rock Festival 2013>

──その初日を昨夜見ましたが、ドラムのイーランが時にはベースを弾いて、打ち込みのドラム・トラックを使う曲もありましたね。これは、あなたの中で「打ち込みで作ったリズムならではのグルーヴが肝要な曲は、ライヴでも人間のドラマーなしでやった方がいいのだ」という最終判断がくだされたということなのでしょうか?

現在とっている4人編成のラインナップは、ライヴでの演奏により自由をもたらしてくれている。メンバーそれぞれがミュージシャンとしての高い技量を持ち合わせていることで様々な楽器をこなすことができ、これまでよりも実験的な曲の解釈/演奏が可能になったんだ。昨年の夏に<フジロック>を皮切りにツアーを開始して、その後の全米ツアー<テンション2013>では8人編成のバンドになったわけだけど、そもそも前のツアーは最新アルバム『ヘジテイション・マークス』にフォーカスしたものだった。新作では、ビートには基本的にループやビート・ボックスといったプレイバックのドラムを使い、そこに生楽器を重ねて作っていったんだけど、昨年後半のツアーでは8人編成になって選任の生ドラマーがいる形になったから、すべての曲を人間の手で演奏するようアレンジしたわけ。そのことによってアルバムとは違う世界感が生まれ、それはそれで面白いと思った。ただ、もともと意図していた方向性からズレていく感じもしていたんだ。その経験をふまえ、今回のバンド編成では、ループを流して楽器を重ねるという原点に立ち返ることが可能になった。当然、演奏した時の感覚も全く違う。ライヴ全編ではないけれど、途中そういう楽器編成を数曲取り入れて、また生ドラムに戻す――と、そういった柔軟性は前のツアーにはなかった。ひとつのショウの中で、打ち込みと生ドラムの割合をどれくらいにするのが一番いいのか、まだやりながら探っている状態ではあるけど、ひとまず昨晩のライヴではいい手応えを感じることができたよ。それが一番の刺激だね。毎晩新しいことを試してみること。一度築いたものを壊して違う形でやってみること。おかげで、大所帯のツアーではできなかったエレクトロニックなものも、どんどん追求することができる。今はそれを楽しんでいるよ。

──昨年<フジロック>の前日にインタビューさせてもらった時、「自分じゃ今、攻撃的なロックを基盤にしたものと、もっと純然たるエレクトロニックに近い何かという、異なるバンドが2つ共存しているような感覚なんだ。その両方を同じメンツで表現し切れるかどうか……。新曲と古い曲を並べて説得力を持たせることができるかどうか」というような話をしていましたが、そのチャレンジは成功したと今では実感できていますか?

ナイン・インチ・ネイルズという傘の下にある様々な音楽性の間を、常に行ったり来たりの繰り返しだね。果たしてNINは攻撃的なロック・バンドなのか、破壊的なエレクトロニック・バンドなのか、あるいはアンビエント・インストゥルメンタルを追求するのか。それらの要素を納得のいく形でブレンドさせる方法を見出そうとしている。予想を裏切るような形で、かつ多重人格者のようには思われない形でね。繰り返しになるけど、今回のツアー・バンド編成は、構成楽器を変えたりとかの融通がより利くようになった。前は8人が常にステージで同じ楽器を演奏している状態に固定されていたけど、今の編成なら、様々な角度から課題に取り組むことができると感じている。

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