96年に森雅樹(G)と大阪でEGO-WRAPPIN’を結成し、07年にはソロ・デビュー作『ソレイユ』を発表。東京スカパラダイスオーケストラの“縦書きの雨”や“黄昏を遊ぶ猫”にもヴォーカリストとしてフィーチャーされるなど、バンド/ソロの双方で活躍する中納良恵。待望のQetic初登場となる彼女は、一度聴いたら忘れられないインパクトを残すヴォーカル・スタイルで、これまでも多くの人々を魅了。EGO-WRAPPIN’で体感できるのがジャズやソウル、昭和歌謡なども取り入れたロックンロールだとしたら、ソロ作で見せてくれるのは、まるで素の表情とも言えそうな、ピアノを主体にしたよりパーソナルな表現だ。

曲ごとに向井秀徳や鈴木惣一朗といった多岐に亘るプロデューサーを迎えた前作『ソレイユ』(07年)に対して、ハナレグミこと永積タカシや坂本慎太郎をゲストに加えた今回のソロ最新作『窓景』では、すべての曲を自分でプロデュース。そこにドラムの菅沼雄太と、エンジニアの中村督を迎えた全編は、『ソレイユ』のツアー中に手に入れたサンプラーでエレクトロニカのように声を重ねた“あのね、ほんとうは”や、四つ打ちのダンス・ミュージックにも迫る“SCUBA”。そして永積との共演が印象的な“beautiful island”や、前作同様オーソドックスな作曲の魅力が光る“濡れない雨”など、これまで以上に様々な表情を見せる楽曲が、7年間のうちにぐんぐん広がった彼女の世界観をそのまま伝えてくれるかのようだ。

今回は、そんな新作の制作背景についてインタビュー! 取材当日はなんとクリスマス。時に冗談も交えながら、ひとつひとつ丁寧に話してくれる姿が印象的でした。

Interview:中納良恵

――まずは前作『ソレイユ』について振り返っていただきたいのですが、あのアルバムはどんな風にして生まれた作品だったんでしょう?

7年も前なので細かいことは覚えてないですけど……あえて EGO-WRAPPIN’と違うものを作ろうというわけでもなく、素直に自分がやりたいものをやろうという気持ちで作った作品ですね。ソロ作なので私が普段好きで聴いているシンガー・ソングライターものとか、フォーク・ソングとか……そういうものにより近づけたいと思ったんです。でも、あの作品では色んな人とコラボレーションをさせてもらったことで、自分の中で「ブレたな」と思った部分もあって。だから今回はメンバーも自分で決めさせてもらったし、基本的にはセルフでやって、ドラムの菅沼くんとエンジニアの中村くんに私の分からない分野をまとめてもらいました。音の細かい作業とか、その辺りは3人で深くやらせてもらった感じですね。

中納良恵 -“ソレイユ”

――このタイミングで、またソロ作を作ろうと思ったのはなぜだったんですか。

それは、前作からここまでの間に、EGO-WRAPPIN’では出来ないことがまた溜まってきていたからですね。7年間の間に書き溜めていたことがまた蓄積されてきていたので。

――なるほど。その「EGO-WRAPPIN’では出来ないこと」というのは、一体どんなことだったんですか?

まずは、ピアノから曲を作るということですね。エゴでも何曲かは(ピアノで曲を)提供してますけど、そうすると森くんがそこに合わせてしまうことになって。彼はそういうことはあまり得意じゃないんです。だからバンドでは、彼のギターの中で歌を作っていくというのが前提にあるんです。それに、EGO-WRAPPIN’はロックンロールで、私の場合はそれも好きなんですけど、それだけではないので。ロックンロール的な部分は森くんから引き出されている部分があるんですよ。だから、そういうエンターテインメント的なものはEGO-WRAPPIN’が強くて、逆に家でコツコツと作るものはソロに反映されていったんだと思います。あと、私は声のサンプラーで遊んだりするのが結構好きで。でもEGO-WRAPPIN’で声を重ねたりしても、他に楽器があるのであまり意味がないんですよね。ソロは私の好きなことを自由に出来る場所なんで、そういうことも楽しんでやりましたね。

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