96年のアルバム・デビュー以降、朴訥ながらもインディ・ポップ好きの琴線を捉えて離さないポップ・ソングを量産し、作品ごとにUSインディの良心としての人気を獲得してきたナダ・サーフ。彼らが最新作『You Know Who You Are(ユー・ノウ・フー・ユー・アー)』を完成させた。

レコーディング前に準備を整え、録音自体は短期間にすることでフレッシュなライブ感を詰め込んだ前作『The Stars Are Indifferent To Astronomy』(12年)に対して、ここでは一度完成させた作品をもとに、さらなる作業を追加。本来の魅力であるメロディのきらめきやピュアネスをよりじっくり煮詰めることで、肩の力が抜けてリラックスした表情をした人懐っこく温かみのあるサウンドが全編に広がる作品を手に入れている。

本国でのリリース元は、彼らとも長い付き合いになりつつある00年代のUSインディ活況の地盤を作った名門〈バースーク・レコード〉(デス・キャブ・フォー・キューティーやライロ・カイリー、ラ・ラ・ライオットらを輩出)。そしてもちろん日本は、こちらも長い付き合いになった、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文が主催するレーベル、〈only on dreams〉。名実ともにUSインディ・ヒーローとして人気を集めつつも常に自然体でいられる秘訣や新作の内容について、ASIAN KUNG-FU GENERATIONとの交流について、中心人物のマシュー・カーズに訊いた。

アジカン・ゴッチの盟友。USインディ・ヒーロー ナダ・サーフ最新作 video160315_nadasurf_2

photo by Bernie DeChant

Interview:Matthew Caws [NADA SURF(Vo,G)]

——オリジナル・アルバムとしては前作にあたる12年の『The Stars Are Indifferent To Astronomy』は、それまでの数作に比べて短期間でレコーディングされ、その結果演奏にとてもエネルギッシュな魅力が詰まった作品になっていましたね。まずはあのアルバムについて、今振り返ってみての感想を教えてもらえますか?

Nada Surf – Jules and Jim

マシュー・カーズ(以下、マシュー) 確かに、『The Stars Are Indifferent To Astronomy』は即興的な要素がある作品だったよね。あの作品はスタジオ入りする前に色んなパートを完璧に準備して、それを即興でレコーディングしていったんだ。逆に今回のアルバムは、一回ほぼ作業を終えたのは去年のことだったけど、「いやいや、まだ完成じゃないぞ。」と思い直して、そのまま作り続けた。そうやって、ある程度完成した状態の作品をさらに仕上げていくことで、より自由な制作過程を得ることが出来たと思うな。「もうやり続けなきゃいけないというプレッシャーはない中で、まだやり続けるという選択肢があった。」という感じでね。

——前作以降のツアーはどうでしたか? 印象に残っていること、刺激を受けたこと、新たに気づいたことなどがあれば教えてください。

マシュー 前作以降は、ウォーターズというすごくパワフルなアーティストとツアーを回ることができた。それに、曲はステージ上で学びなおすことが多々ある。3年前の話だから、もうほとんど覚えていないんだけどね。よくメディアのインタビューで、準備万端のバンドがプレツアーをして観客の前で手ごたえを確かめながら楽曲を仕上げることがあるけど、僕らは……絶対できない(笑)。そこまで準備が上手くいくことがないから。でも、こうやってジャーナリストの人たちと話すことで、自分自身アルバムについて色んなことが分かってくるところがあった。「今回のアルバムはパーソナルな作品ですね」と言われると「ああ、確かに内面的な作品かもしれない。」って思ったりね。で、前作以降のことで言うと……よく「ヒット」と言われる時に、そこにはラジオでのヒット曲と、ライブの観客の中でのヒット曲の2種類があると思うんだけど、“When I Was Young”がどこに行ってもすごく反響があった、ということだね。

Nada Surf – When I Was Young (Live on KEXP)

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