WEB漫画サイト「トーチ(リイド社)」で2014年より連載が始まり、1日4万ビューを記録した漫画『くも漫。』が、劇場映画2月4日(土)より公開されることが決定しました。風俗店でのサービスで絶頂を迎えるその瞬間にくも膜下出血を発症した、そんな悲劇的な出来事を経験した実在の男を描いた、ノンフィクション漫画『くも漫。』。原作者・中川学が「人生で一番人に知られたくない出来事」 を赤裸々に綴った原作は、前述の通り多くの人の評価を得られ、第4回ATP(全日本テレビ番組製作社連盟)若手映画プロジェクト支援作品として企画公募より選ばれ、映画化することとなりました。

主演を務めたのは、ブレイク間違いなしと注目を集めるピン芸人、脳みそ夫。ヒロインの風俗嬢“ゆのあ”嬢には、近年映画『シン・ゴジラ』 などの映画作品やCMに出演している柳英里紗。主人公の妹はシンガーソングライターとして注目されている沖ちづる。さらには病院の熱血担当医を板橋駿谷、主人公の母には立石涼子、父親役には平田満、病院での患者仲間に坂田聡と、ベテラン俳優陣が名を連ね、わきを固めています。

本作でメガホンをとったのは、TVで情報番組やドキュメンタリー番組を多数手がけ、中川学のデビュー作『僕にはまだ友だちがいない』のドラマを企画・演出し、ATP全日本テレビ番組製作社連盟新人賞(2013年)を受賞した小林稔昌。本作が長編映画初監督作となります。また、ややもすればサブカル的な雰囲気に留まりがちな雰囲気を、洒落たジャズサウンドで彩り、一味も二味も違うエンタテインメント作品としているGentle Forest Jazz Bandのスウィングサウンドも、作品のカラーとしてはセンスを感じさせるポイントといえるでしょう。

エピソードの発端も気になるところですが、話題となったそのストーリーや、原作を意識した演出には非常に興味をそそられるところでもあります。その内容や映画撮影の経過などを、今回は原作者の中川さん、映画で主演を務めた脳みそ夫さんにおうかがいしました。

Interview:脳みそ夫、中川学

【インタビュー】「人生で一番人に知られたくない出来事」から見えた、笑いと人情のストーリー『くも漫。』 IMG_0134-700x467

「こんな経験はなかなかない」絶対いつか形にしたいと思っていました(中川学)

——この作品を描いたきっかけは、どんなことだったのでしょうか?

中川学 そうですね……くも膜下出血になった後、集中治療室に運ばれて2~3日は幻を見たりしながら苦しんだんですけど、その後意識が戻った時には既に「この体験て客観的に見たら面白い」って思ってたんです。人に話したら「こんな経験はなかなかない」と言ってくれるし、これは面白いからいつか形にしたいって。漫画になる題材だと思ったんです。

——なるほど。確かにインパクトのあるエピソードですよね。この作品のストーリーで中川さんがアピールしたかった部分というのは、どのような内容なのでしょう?

中川学 「家族」というところなんです、実は。僕がくも膜下出血になって、それを家族がどんな風に助けてくれたか。父親が僕が風俗店に行ったことをどうとらえたか? 母親は? というところを描きたかった。

——確かに映画の最後の方で、描かれるお父さん役の平田満さんのセリフや、お母さん役の立石涼子さんとの会話場面など、強く心を引かれるようなところがありますね。一方で要所に出てくるキャラクター「くもマン」ですが、これは何の象徴なのでしょうか? すごく可愛らしさを見せるけど、まるで死神を想像させる存在、すごく怖いものというか。また、当時に実際にこんな象徴的な対象を感じられたのでしょうか?

中川学 いや、実際にはそういうものの存在を感じたわけではないです。ただ死の象徴じゃないですけど、こういうキャラクターを登場させた方が読んでいる人にはわかりやすいんじゃないか、と思いまして。例えば、よくくも膜下出血の表現として「後頭部をバットで殴られたよう」という言い方がされますが、それをそのままビジュアル化すれば、読んでいる人にわかりやすいかな、と思ったり。

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——一目瞭然な感じですね。それにしてもパッと見た感じは可愛いのに、目つきや脳みそが露出しているデザインがすごい……ですよね(笑)。

中川学 可愛い感じでしょ(笑)。可愛くしたのは、このストーリーが、書き方によってはすごく悲惨な話になるという部分を危惧したからなんです。「ニートが、せっかく仕事がうまく行きかけた時に、風俗店でくも膜下出血、もしかしたら死ぬかもしれない」って、それだけ聞いたらすごく悲惨で暗い話ですよね。でもあまりにも暗い話をやってもしょうがないので、「くもマン」というポップなキャラクターを出すことで、悲惨さを中和した感じなんです。

——それにしても本当にこれはすごくインパクトのあるキャラクターですよね……このキャラクター自体は中川さんが考えられたのでしょうか?

中川学 そうです。大人の事情により原作の時とはデザインがちょっと違っていますが……。でも映画のデザイン我ながらかなり気に入ってます。逆に大人の事情があってよかったなと(笑)。

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——なるほど(笑)。脳さんは撮影前には原作も読まれたかと思いますが、どんな印象でしたかね?

脳みそ夫 いや、面白いギャグ漫画だと思いましたね。怖いとか、それほど感じなかったです。映画はちょっと怖い感じはしましたけど。

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——先ほど家族の話というのもありましたが、対してくも膜下出血になる前の生活では、逆に生きているという実感をされていなかったのかなあ、というイメージも感じました。そんな部分はいかがでしょうか?家族という部分だけでなく、ストーリーの中心にいる自分という閉じた部分の存在に対しても、何らかのメッセージを感じたのですが……。

中川学 それもありますね。病気になる前は、自分の好きな道に勇気を持って行くことができなかった。それが病気になったことで「いつ死ぬかわからないんだったら、自分の好きなことを徹底的にやってやろう」という風に、はっきり道が決まった感じはありますね。発症前後で人生が大きく変わったというか。

——なるほど。ちなみに当時のことをお聞きしたいのですが、くも膜下出血の予兆のようなものはあったのでしょうか? 発症例を聞くと、よく事前に頭痛が続くというお話を聞くのですが……。

中川学 いや、まったくなくて、本当に発症する直前まで絶好調! という感じだったんですよね……。

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——そうでしたか。いろんな方から話をうかがった上では、後遺症が出るという部分など非常に心配なところもあるということでしたが……。

中川学 人によると思うんですが、手足がちょっとしびれた後になるという人もいれば、僕のように何の予兆もなくいきなり来るというようなこともあるし。

脳みそ夫 怖いですね。まったく何もなかったんですか?

中川学 まったくなかったですね。ただ発症の引き金になったのは血圧が急上昇したことなのは間違いないです。発症の瞬間、超興奮してたので(笑)。普段も血圧は結構高めで…

——そうでしたか。そう聞くと、本当に健康には気を付けなければ、って思いますね。脳さんもどうでしょうね、実際に自分もなってみることを想像すると……。

脳みそ夫 それは怖いですね。僕は逆に低くて、上が100切っちゃっていまして(笑)。低すぎて心配になったことはありますね。

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——すごい低血圧ですね(笑)。でも、いきなりバーン! ってこられたら……。

脳みそ夫 いやいや、本当に何の前兆もない、って怖いし。高血圧っていっても、中川さんもそこまでっていうわけじゃないと思うんです。だから、誰にでも起こりうることですよね、本当に怖い。僕がなったらシャレにならないじゃないですか? 脳みそ夫がくも膜下出血って(笑)。

——「最後まで芸人だった」という感じになりますね(笑)。

脳みそ夫 いやいや、そんなの勘弁してください(笑)。

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