ドン・ウォズが社長に就任して以降の名門〈ブルーノート〉において、ロバート・グラスパーとともにレーベルの顔役としてジャズの可能性を広げてきた立役者のひとり、ホセ・ジェイムズ(Jose James)

彼が最新作『ラヴ・イン・ア・タイム・オブ・マッドネス』を完成させた。ビリー・ホリデイの全編カヴァー・アルバムとしてジャズ・シンガーとしてのルーツを見つめた15年の『イエスタデイ・アイ・ハド・ザ・ブルース』に対して、今回彼が手にしたのは時計の針を一気に現代へと進めた、コンテンポラリーなR&Bのかがやき。プロデューサーのタリオやライクマインズを迎えて自ら本作を「R&Bデビュー作」と位置づけ、アメリカのメインストリームを席巻するトラップなど最新の要素を取り込みながら、「混乱の時代における愛の尊さ」を歌っている。来日したホセ・ジェイムズに、本作に込めた思いを聞きました。

ホセ・ジェイムズ待望の最新作!

Interview:ホセ・ジェイムズ

【インタビュー】ホセ・ジェイムズ 慣れ親しんだジャズから現代的R&Bの地平へ。最新作『ラヴ・イン・ア・タイム・オブ・マッドネス』を語る。 UCCO1068_main_Photo-by-Shervin-Lainez-700x578
photo by Shervin Lainez

——ビリー・ホリデイのカヴァー曲を収めた前作『イエスタデイ・アイ・ハド・ザ・ブルース』は、たとえるなら映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のように、あなたが過去に向かって新たな音楽を見つけてくる旅路のような作品だったと思います。

ハハハハ(笑)。

——それに対して今回の『ラヴ・イン・ア・タイム・オブ・マッドネス』は、モダンR&Bの要素を大々的に取り入れて、テーマを現代に絞っていますよね。これには何かきっかけがあったのでしょうか?

いい質問だね。僕は17歳の頃に初めてのジャズ・バンドを組んで以来、20年以上もジャズをやってきて、ビリー・ホリデイのアルバムを作ったときは、最強のプレイヤーたちと一緒にスタジオに入り、ドン・ウォズがプロデュースをして、ブルーノートから作品が出て……。「あとはジョン・コルトレーンさえ参加してくれたら100%だ」と思えるほど最強の環境で作品を作ることができた(笑)。ある意味ジャズの中で僕のキャリアが一周したような出来事だったんだ。だから、自分の中ではジャズについての興味に一度区切りをつけられるような作品に思えたんだよ。そう言うと、アメリカでは「ジャズに飽きたんだね」って言われたりもしたけど、それは違う。僕がそのとき考えていたのは、「ビリー・ホリデイのようなアーティストが現代に生きていたら、どんな音楽をやっていただろう?」ということだった。「ビヨンセになってたのかな、それともニッキー・ミナージュになってたのかな?」ってね。本当の意味での彼女のレガシーを今に伝えるためには、彼女のパワフルで、グローバルだった活躍を、今に置き換えて考える必要があると思った。だから、僕の感覚としては、これは終わりであり、同時にはじまりでもあるんだよ。

——なるほど。だからなのか、今回の作品には音楽的に見てもこれまで以上にモダンな要素がちりばめられています。どんな風に影響源を吸収していったのですか?

まずは純粋に、このところ新しいアーティストの中に面白い音楽をやっていると思える人が沢山いたんだ。たとえばグライムスにしても、DIYなスタイルを持ちつつ、成功もいとわない雰囲気がある。80から90年代に青春時代を過ごした人間としては、「売れる=セルアウトだ」という考え方もあるんだけれど、今の若い子たちはアートを犠牲にはせずに、ヒットを出していたりもするんだよね。そして、それにメジャーな人たちが影響を受けていたりする。今回僕が一度ジャズから離れたいと思ったのは、それに比べてジャズのメンタリティに古臭さを感じたからなんだ。ジャズの世界では昨今、規模は小さくていい、この歴史を守ろうぜという雰囲気がある。でも自分は過去じゃなくて、未来の方にこそ興味がある人間なんだよ。それがいいのかどうかは分からないけど、つねに自分を先に進めようと思ってしまうんだ。

——この新作はそれぞれの出自を飛び越えて色んな音楽要素が混ざった場所に辿りついているという意味で、フランク・オーシャンの『blonde』やザ・エックス・エックスの『I See You』などと同じ場所に位置するような作品だと思いました。今回の作品を作るまでに、特に刺激を受けたアーティスト作品を教えてください。

それは2つあるよ。ひとつはドレイクの13年作『Nothing Was the Same』。それまでの2作はあまり好みではなかったんだけど、あのアルバムはミニマルなプロダクションで、彼の声がセンターに来ている作品だった。それに、後半になるにつれてパーソナルな感情が出てくるところも好きだった。普通のラップよりも感情を掻き立てられるような雰囲気で、すっかり会心させられてしまったんだ。

もうひとつは、13年のビヨンセのセルフ・タイトル作だね。ここにはドレイクもフィーチャーされていたけど、彼女ほどビッグな成功を手にした人の作品にもかかわらず、とても正直で偽りのない作品だと思った。この作品には自分の流産のことも含めて色々なことが赤裸々に語られていた。

僕の今回の6曲目“リヴ・ユア・ファンタジー”はビヨンセの“ブロウ”に通じるものがあると思うし、11曲目の“クローサー”はドレイクのアルバムのどの曲とも繋がっているように感じてる。別にプロダクション面だけではなくて、トラップ・ビートの上に“歌を中心としたメロディを書く”という行為自体も含めてね。3曲目の“レット・イット・フォール feat. マリ・ミュージック”はどの世代の人も好きだと言ってくれる曲だけど、それもビートがどうという話ではなくて、そこに至る前に曲に恋してるということだと思うんだ。僕は音楽ってそういうものだと思う。全部好きになる必要はない。何か好きな要素がひとつあって、そこに何かが加わって、また別のよさを感じてくれるならそれでいい。……秘密を全部言っちゃったから、もう質問しないでね(笑)。

José James – Live Your Fantasy

Live Your Fantasy収録最新作!