80年代にエヴリシング・バット・ザ・ガールとしてデビューして以降、時代ごとに様々な音楽性を手にしながらも、“音楽シーンの良心”とも言える誠実な活動で支持を集めてきたベン・ワット。彼のソロ最新作『フィーヴァー・ドリーム』は、前作『ヘンドラ』で制作を共にしたバーナード・バトラーをふたたび招集。「自分の人生」や「現在の自分にとって近しい人々との関係」に着目することで、フォークやジャズ、ブルースを自在に横断しながら、感情の波をより豊かに表現した作風を手に入れている。

そんな彼が、今回<Hostess Club presents Sunday Special>で再来日。作品にも大きく貢献したバーナード・バトラーと共に、日本の観客の前でライヴを行なった。この日は14年のサマーソニック出演時とは異なり、ウッドベースやドラムを加えた4人組のバンド編成。“Bricks And Wood”でしっとりスタートすると、その後も“Young Man’s Game”、“Faces Of My Friends”を筆頭に、ベンの朴訥とした歌&ギターとバーナードの華やかなギターとが綺麗なコントラストを描いて絡み合う。途中2人でギター・ノイズをユニゾンしたりするなどこの編成ならではのステージングで会場を湧かせると、終盤にはベンのソロ1作目『North Marine Drive』から“Some Things Don’t Matter”も披露された。

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異なるキャリアを歩みながら、現在はコラボレイターとして互いを理解し合うベン・ワットとバーナード・バトラー。『フィーヴァー・ドリーム』の話を軸に2人の関係性についても訊いたインタビューは、そんな今ならではの軽妙なやりとりが印象的なものになった。

Interview:Ben Watt × Bernard Butler

――31年ぶりのソロ2作目となった前作『ヘンドラ』は、歌詞にも登場する通り、突然亡くなってしまったあなたのお姉さんがよく向かっていた通りの名前を冠した作品でした。まずはあのアルバムについて、改めて振り返ってもらえますか?

ベン・ワット(以下、ベン) 今振り返っても、その意味自体は変わってないな(笑)。『ヘンドラ』は僕自身も誇りに思っていて、心のこもった誠実なレコードだった。でも今聴くと、ところどころ手探りな部分があったように感じるよ。僕はそれまで10年ほど、DJ/プロデューサー、レーベル・オーナーとして活動してきたわけだけど、『ヘンドラ』では久しぶりにギターを手にして歌うことになった。つまりあの作品は、シンガーソングライターとしての自分を久しぶりに探すような作品だったんだ。自分が出来ること/出来ないことを色々と試した作品だったというか。それはきっとバーナードも同じで、自分の音楽の中で彼がどこまでやっていいのかということを試した作品だったと思う。でも、その作業を経てお互いを理解することが出来たから、それが『フィーヴァー・ドリーム』では自信になって表れているんじゃないかな。それが今回のよりダイナミックな音に繋がっていったんだよ。

――もともと、2人のギター・スタイルはまったく異なる種類のものですよね? それをどんな風にひとつの作品にしていったんでしょうか。

ベン うん、その「違い」が重要なポイントだった。まるで2つの声があるみたいにね。だからこそ作品にドラマが生まれたり、新しい要素が生まれたりする。たとえるなら、マイルス・デイヴィスとジョン・コルトレーンみたいな関係性だよ。あくまで僕の頭の中ではね(笑)。

バーナード・バトラー(以下、バーナード) (嬉しそうに)ははは。

――『ヘンドラ』は自然に曲を書きたいという気持ちが湧きあがって完成したレコードだったと思います。今回の『フィーヴァー・ドリーム』はどんな風に作り始めたんですか?

ベン 『ヘンドラ』の制作が終わったのが14年の年末で、そこからクリスマス休暇を取ったんだけど、その時点では次にどんな作品を作ろうかは全く考えていなかった。むしろ、自分の両親について書いた著書『Romany and Tom』に続く別の本を書こうと思っていたんだ。フィクションの小説をね。それで休暇の間に、色んな人達の人間関係について話を聞くことにした。うまくいっている結婚やうまくいっていない結婚の話、親や子供との関係で苦しんでいる人の話……。本当に色々な話を聞いて、それって「面白いな」と思った。そこからまずは、今回の作品に繋がる歌詞を書き始めたんだ。でも、そうして人々の関係性についての歌詞を書いていたところ、徐々に自分の周囲との関係性にカメラを向けるようになって。それで僕の人生や家族、(EBTGのパートナーで私生活でも結婚をした)トレイシーとの関係についての歌を書くようになったんだよ。そこからバーナードも呼び入れて、彼が僕の書いた曲にさらにドラマ性を持ち込んでいったんだ。

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『フィーヴァー・ドリーム』ジャケット

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