2012年に所属レーベルを〈キューンミュージック〉に移籍し、8月には3年ぶりのフルアルバム『BABY ACID BABY』を発表したばかりのART-SCHOOLが、早くもミニアルバム『The Alchemist』(2013年3月13日)をリリースする。それも限定5,000枚のみ、である。

これまでにART-SCHOOLはミニアルバムのリリースが比較的多く、インディーズ期の作品から現在に至るまでのどれもが名盤尽くしであることに触れておきたい。ミニアルバムはフルアルバムよりボリュームに欠けるものの、リスナーが音楽を集中して聴けて、制作者としては作品に注ぐ熱量をギュッと凝縮できる。その一つの特徴から、ART-SCHOOLにとってのミニアルバムは、彼らの真骨頂とも言えるのではないだろうか。

『The Alchemist』は全6曲ながら、『BABY ACID BABY』で打ち出した表現の新境地がさらに色濃く打ち出されている。重厚感があるバンドサウンドの中に、透明感やソフトなニュアンスも含まれていて、聴いていても不思議なことに耳が疲れることはない。ノイジーながら、ノスタルジックやメランコリックな響きもあって、絶妙なバランスで成り立っているロック。その背景から痛切に感じるのは、木下理樹(ヴォーカル、ギター)と戸高賢史(ギター)の確固たる信念。メンバーの脱退というクリティカルな状況を乗り越えた二人の表現に、敬愛すべき先輩ミュージシャンである中尾憲太郎(ベース、Crypt City)と藤田勇(ドラム、MOSOME TONEBENDER)が新たな色を添えることで、ART-SCHOOLの表現は進化を遂げた。『The Alchemist』は、新体制によるアルバムのリリースとツアーで培ってきた、強靭なグルーヴと迸る制作意欲までもが凝縮されている。

今回Qeticでは、ART-SCHOOLのフロントマン・木下理樹にインタビューを敢行した。『The Alchemist』を軸に、自身が理想とする音像と、再出発後のバンドの現状について語ってもらった。

Interview:ART-SCHOOL(Vo.G木下理樹)

――これはART-SCHOOLのディスコグラフィを並べてみて思ってきたことなんですが、ミニアルバムのリリースが多いですよね。

ミニアルバムって結構リスナーにしても買いやすい、まずは値段が安いということがありますよね。あとは聴きやすいサイズというか、フルアルバム14曲入りとかで60分ぐらいだと仮にしたら、今の若い子たちは好きな曲しかパソコンに入れないんじゃないかなと思っていて。それに、フルアルバムになると、必然的に値段も上がるじゃないですか。

――そうですね。僕はART-SCHOOLを長く聴いてきたリスナーの一人で、ミニアルバムはART-SCHOOLにとっての真骨頂とも言えると思っているんですね。理樹さんとしてはどうですか?

ミニアルバムは好きですよね。今回は時代に合わせたわけではないんですけど、ミニアルバムの方が、音楽が凝縮されていくということはありますよね。あれもやりたい、これもやりたい、というよりも、削ぎ落したものが凝縮されていく。今は曲数が多いことにそんなに価値はないというか、フルアルバムで多くても11、12曲ぐらいじゃないですか。それによって値段が上がったり、散漫な印象を与えてしまったりするのであれば、ミニアルバムの方がいいのかなと思いますよね。例えば11曲入りの完璧な作品が出来ていたら、11曲入りのフルアルバムにしたんでしょうけど、それよりも今回の6曲に絞ってやった方がいいという判断でしたね。あとは前作の『BABY ACID BABY』を作ったばかりの感覚が残っていたので、ツアーで培ってきたグルーヴ感というか、僕とトディ(戸高賢史、ギター)と中尾さん(中尾憲太郎、ベース)と勇さん(藤田勇、ドラム)とのケミストリーがあったから、それを出したいなと思っていて。

――まさに『The Alchemist』は『BABY ACID BABY』で打ち出した新機軸を凝縮した作品である一方、限定5,000枚に絞ってリリースするんですよね。

これは僕もナタリーのニュースで知ったんですよ(笑)。「え、限定になったんだ…」って。

――(笑)。ART-SCHOOLはこれまでにも完全限定生産の作品を発表してきましたが、ご自身としては、限定という形態をどう捉えていますか?

僕はコレクターだったりもするので、マイブラ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)が限定で特別な何かをリリースするとなったら、もちろんそれは予約しますよね。作り手側としては、もちろん色んな人に聴いてほしいですよ。以前、東芝EMIに所属していた時に限定でリリースした『SWAN SONG』は、あっという間に無くなったという感じだったんですよね。あれを再発してほしいという要望は、Twitterとかで届いて有り難いけど、その一方で、限定には限定としての潔さがあるのではないかとも思いますね。

――ART-SCHOOLの現状を整理すると、前作の『BABY ACID BABY』が2年ぶりのリリースにあたって、今作の『The Alchemist』はそこから7ヶ月でリリースされることになりますよね。今は創作意欲がすごく漲っている状態なんじゃないかなと思うんですが、新生ART-SCHOOLと理樹さんはどんな現状にあるんでしょうか?

『BABY ACID BABY』をリリースしてからツアーに出て、やっぱりその感触が良かったというか。例えば、昔の曲を演っても全然違うんですよ。それはメンバーが違うから当然なんですけど、より自分にとっては理想的になってきていて、「こんな音を鳴らしたかったんだよな」という実感があったから、楽しかったんですよね。その気持ちのまま、11月ぐらいにミニアルバムを作りたいと話した記憶はあります。

――いまART-SCHOOLが求める理想の音像は、どんな言葉に置き換えることが出来ますか?

リスナーがどう受け止めても構わないというか、僕は『MUSICA』という音楽雑誌でライターの仕事をやったりするから分かるんですけど、例えば、これはギターロックですと銘打ってるバンドがいるとしますよね。僕はそういうバンドには全く興味はない。つまり、音楽をやっている人間を知りたくて聴きたいんですよ。僕は自分たちがギターロックでもシューゲイザーだとも思っていないし、ART-SCHOOLであると思っていますからね。言ってしまえば、カテゴライズというのは分かりやすいんです。その方が説明しやすいから。もしカテゴライズするのであれば、単純にロックでいいんじゃないですか。

――メディアやレーベルにとっては、ムーブメントを作る要素として、音楽をカテゴライズすることはものすごく便利ですよね。

そうそう。僕は言葉を選ぶ時、かなり慎重に選ぶんですね。例えば、ギターロックというものが廃れた場合、「ギターロックと呼んできたバンドたちはどうなるんだろう?」と思うので、批評する時はなるべく一つの言葉に集約しないようにと気を付けていて。歌詞を書くにしても音と同じくらいに言葉は大切だし、歌詞の面でART-SCHOOLが支持をされているという思いもありますし。

――理樹さんの書く詞世界はキーワードとして、アンニュイ、メランコリック、それから少し暴力的や性的な表現が盛り込まれていますよね。

詞を書く時は、なるべく映画とか本とか、あるいは絵とかを見て、そこから刺激的なイメージを得ようとするんです。あと僕が意識しているのは、実体験を絶対に加えるということですかね。たとえ、それが人から見てものすごく恥ずかしいことやかっこ悪いことであっても、そこを描きます。

――そこでいうと『The Alchemist』というタイトルは「錬金術師」という意味ですけど、これは中世ヨーロッパを連想する言葉ですよね。何がイメージソースになっているんでしょうか。

たしか『夢見る少年』だったかな。世界中で読まれている小説があって、羊飼いだった男の子がどんな苦境にもめげずに夢を追いかけていくというストーリーで、僕は恥ずかしながら、その小説を読んだことがなくて。『The Alchemist』を作る前に読んでみたら、ちょうど今の日本にぴったりなテーマだなと。単純にいうと、その本にロマンを感じたんですね。確実にその本がインスピレーションとなったので、敬意を表してタイトルにしました。

★木下理樹インタビューまだまだ続く!
>>メンバーチェンジを経ての心境はいかに…?