第57回 ホームレスの君へ

ームレスの自立支援をする活動に参加してから3年が経った。最初の頃は週末の炊き出し準備ばかりだったが、今では体調を聞いて回る「声がけ」も行っている。暖かい時期はそうでもないが、冬の寒さが厳しくなると具合の悪くなるホームレスが増えるからだ。すぐに救急車を呼ばなければならない事も度々ある。みんな穏やかそうでギリギリで生きている。だから僕はホームレス達がよく集まる場所に到着すると無意識に人数を数えてしまう。ここ最近はホームレスの数が増えてる様な気がしてならない。

その日いつもの声がけをしていると「アイザワか?」と突然声をかけられた。顔は薄汚れていて良く分からなかったが、その声は確かに良く憶えている。高校時代に没頭していたバスケ部のチームメイトだった。3年間ほぼ毎日一緒に過ごした彼の声を忘れるはずが無い。当時キャプテンで大活躍だった彼と、目の前でだらし無くあぐらをかいている男が同じ人間なんてすぐには信じられかった。どうしたんだよ、お前らしくないじゃないか、そう言おうと思っても言葉が詰まって出なかった。スポーツでも学業でも将来有望だった彼に一体何があったのだろう。この生活が短くないのは彼の服装や目線で想像出来た。

自分の気持ちに嘘はつけないというのは本当で、彼の現在の姿は正直滑稽だった。今まで見ず知らずのホームレスは助けて来たのに、高校時代のチームメイトにこんな気持ちが生まれるなんて自分でも意外だった。何か貰えるのを期待して待っている元チームメイトを尻目に、僕は何も言わずその場から離れた。背中から「アイザワだろ?」と彼の声が聞こえる。僕は彼の声が届かない場所まで急いで歩いた。そして1人になって考えた。今僕はボランティアに常につきまとう「偽善」と初めて向き合い、すぐに逃げ出したのだ。ホッカイロとクラッカーが詰まったバックを肩からおろし、捨ててしまおうかと悩んだ。吐く息が白い。もう春先なのに今夜は雪が降るかもしれない。それでも、ただ立ち尽くすしかなかった。