第9回 耳澄ます少年

ポストの後ろに少年がいるのはずいぶん前から見えていた。何しろこんなに丸見えだから、かくれんぼの最中でも無いのだろう。

もしかして配達人がお父さんで、回収に来た時に驚かせるのかもしれない。俺は手紙をバックから取り出しながら、君は何してるの?と聞いてみた。

「僕はね、手紙がポストに入ったときの音が大好きなんだ。封筒、小包、ハガキ、もちろん色々あるんだけどさ、投函する人の心の中まで音に出るんだよ。急いでいる人、ただ頼まれた人、イラついてる人、思い詰めてる人。どんな気持ちで何を投函するかで全然音が違うんだ。ちなみに僕が好きな音はね、電話が無かった時代の人達の投函の音。とくにおばあちゃん達なんだけど、手紙の存在を大事に大事に思ってる、そんな優しい音がするんだ。」

そう小さい声で話してくれた。そしてその輝いた瞳で、早く投函してよ、と促してくる。

俺が手に持っていた手紙は海外に嫁いだ妹への手紙。この手紙がどんな音を立てるのか、気になってなかなか投函できない。しかし目をつむったまま投函に耳を澄ます少年を待たせるわけにもいかない。俺は手紙を投函し、なんとなく足音を忍ばせてその場を離れた。

何歩か先で振り返ると少年は俺に向かって微笑んでいた。なんだか良い手紙を出せたような気がして無性に嬉しかった。