第96回 猫のミキオ

「何か用事かね? さっきからワシらを見ているじゃないか。」すみません、2人は凄く仲が良いなと思って見つめてしまいました。随分長く一緒に過ごしているんですか?「まあね。まだ手のひらに乗るほどの子猫だった時からだから、10年間くらいだな。」そうですか、これからも長生きしてください。もしよければあなたの名前を教えてもらえますか?「ワシか? ワシの名前はミキオだ。」

ミキオ。それは僕の名前と一緒だった。母さんが僕の名前を飼い猫につけていたなんて。僕がこの家を飛び出してからもう10数年が経っていた。大喧嘩したままとうとう1度も戻って来なかった僕のことを母さんは許してくれるだろうか。見たところかなり腰も曲がっているし、体もひと回り小さくなったようだ。

僕がこの世に生きていないことにミキオが気づいたらしい。母さんに向かって必死に鳴き始める。珍しく鳴き声を上げ続けるミキオに「ミキオ、そんなに泣いてどうしたの? もうすぐ終わるからね、どこにも行くんじゃないよ。」と母さんは話しかけた。なんだか僕に向かって言ってくれた気がしてとても嬉しかった。そしてすぐに悲しくなった。涙が止まらないよ母さん。これからもどうぞお元気で。