第73回 最後の夏に

僕はこの島の最後の小学生。僕が卒業すると同時に小学校が廃校になる。今は僕しか子供がいないからどこにいっても声をかけられるし、誰にでも可愛がられる。居心地が良いかと言うとそうでもない。自分だけの時間が無い気がして少し億劫だ。もっと小さかった頃はそんなこと思わなかったんだけど。

ある日の帰りに校長先生の家の横を通った。何気なく部屋を覗くと、そこにナミ先生の姿が見えた。彼女は全ての教科を僕に教えている、この島でたった一人の先生だ。テーブルに座って優雅にワイングラスを傾ける彼女は、毎日学校で会っている先生とはまるで別人だ。先生の家はここじゃないのに何してるんだろう、そう思ってもなぜか声をかけられない。普段とは違う雰囲気に惹きつけられてしまい、しばらく僕はそのまま部屋の中を覗いていた。

すると部屋の奥から校長先生が出て来た。なんだやっぱり学校の集まりなんだ、と思った瞬間、校長先生がナミ先生を背中から抱きしめた。そして耳元で何かささやく。彼女は怒ることも無く目を閉じて優しく微笑む。その光景に僕は驚いて思わず持っていたボールを落としてしまった。すぐに彼女は目を開いて僕を見つけた。校長先生はナミ先生に夢中で気づいていない様子だ。僕は目を逸らせないままそこに突っ立っている。ボールを取りに行くフリをしてここから早く逃げ出そう、そう思ってもどうしても体が動かなかった。

ようやく目を逸らした彼女は、首元に吸いついていた校長先生の手を引いて奥の部屋へと入っていった。窓に張り付く僕のことを校長先生に見せないようにゆっくりと進んで行く。後ろ手にドアを閉めながら、最後に彼女は僕に小さく手を振った。落としたボールをそのままに、僕は家に向かって全力で走って帰った。数時間たった今も、手を振った先生の後ろ姿が頭から離れない。目を逸らさなかった先生の濁った視線も頭から離れない。僕の最後の夏休みが溶けていく。

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