第106回 食べて。食べないで。

ママが痩せ始めたのは離婚して半年くらい経ってから。2人暮らしなのに食べ切れないほどの料理を作ってしまうママに、私はあえて何も言わなかった。きっと寂しいんだろうって、そのうち2人分に慣れてくれるだろうって思ってた。だけど実際はその逆だった。食事を作る量はますます増えていき、体重はどんどん減っていった。

夕飯の後にママはカレーパンを食べ始めた。「よく食べるね」カレーパンの後にメロンパンが始まった。「お腹壊すよママ」次にみかんゼリーを食べ始めた。「そのデザートで締めてよね」私の小言にママは段々不機嫌になる。そしてまた冷蔵庫に向かって歩き始める。「いい加減にしてよママ!」こうして喧嘩が始まる。そんな日々だ。

私はママを助けたい。いつも私に気づかれないように隠れて吐いてるママを助けたい。それなのに何かを食べてる姿を見るとつい怒鳴ってしまう。あんなに綺麗で自慢のママだったのに。洗面所で体重を計っていたママが「これならもう少し食べても平気かな」と乾いた声で呟いた。もう限界かも知れない。そそくさとキッチンに向かうママを私にはもう止められない。体重計に残ったママの体重を見下ろしながら、私はそう思った。