第51回 どこまでも平行な水平線

か前に会ったのは彼女が離婚して間もない頃だったと思う。3年位前だろうか。日ごとに破綻していく家庭に疲弊していた彼女は今より何キロも痩せていた。やつれていた、と言った方が正しいだろう。久しぶりに地元に帰って来た彼女に呼び出された時、「何かあったんだろうか」と心配になったが、いくらかふっくらとした表情を見て少し安心した。僕は何気なく「この3年間どうしてたの?」と聞くと、思ってもみなかった返事が返って来た。彼女は結婚詐欺に遭っていたのだと言う。

「結婚しようって言ってくれたから、私は田舎の両親にも会わせたの。離婚してから両親とはあんまり連絡取ってなかったから凄く喜んでくれたわ。お母さんは「この子をよろしくね」なんて言って。私も嬉しくってその場でちょっと泣いちゃった。実はその頃から彼にお金を貸したりしてたんだけど全然気にならなかった。正直貸してるって意識も無かったかも。ほぼ一緒に住んでたし、財布は一緒なんだって思ってた。そんな生活してたらね、いきなり警察に呼び出されたの。「彼は結婚詐欺師だったんです。あなたはまだ大きな被害に遭ってなくて良かった」って。もう全世界の時計が一瞬止まった感じだったよ。その後は全部通り越して思わず笑っちゃった」

彼には妻も子供もいたらしい。「本当に、何にも、全然気付かなかった!」と笑って話す彼女が空元気なのか、立ち直っているのか僕には分からなかった。でも彼女がまだ詐欺師の事を愛してるって事はなんとなく分かる。かなり悲惨な話なのに、なんだか嬉しそうに当時の事を話す彼女。そんな彼女を僕はずっと眺めていた。相変わらず綺麗な横顔のせいで僕は言葉がうまく出て来ない。しばらく黙っている僕に気付いて、海を見つめながら話していた彼女が振り向く。僕はとっさに「なかなかうまくいかないね」と言うと、彼女は「そうだね」と呟いて、またすぐに海に視線を戻した。