第46回 招かれて

ートの途中でお寺に行くなんて駄目だよなと思ったけど、どうしても気になったから立ち止まってしまった。そんな僕の気持ちに気付いた彼女も「まあ仕方ないね」といった感じで僕を見上げる。さすがに寺から出てくる人達がみんな神妙な顔をして招き猫を抱えてたら誰でも気になるはずだ。僕は今まで両手で抱えるほど大きな招き猫なんて見たことが無かった。もちろん彼女も無いだろう。お寺の中に入って行くとすぐに立派な本堂が見える。でもそこには人はまばらで、みんな本堂の更に奥へと入って行く。そのままついて行くと、そこは誰かの願いを叶えた招き猫達が所狭しとひしめきあう巨大な安置所だった。

何日か前に大学合格の通知をもらっていた僕は「招き猫の手を借りなくても願いが叶っちゃったけどね」と言いながら振り向くと、そこに彼女がいない。後ろから来ていたはずの彼女がこつ然と消えてしまっていた。周りを見回しても、数百を軽く越える招き猫がただ静かに並んでいるだけ。もしかして猫好きな彼女はお土産売り場に直行してしまったのかもしれないと思い、僕は途中にあったお土産売り場に戻った。けれど、大小さまざまな招き猫が並ぶ売り場にも彼女の姿は無かった。

外に出て本堂の方を探そうと思ったその時、庭を掃いている事務員の男が僕に話しかけて来た。「君の彼女はここに戻って来ただけなんだ。きっと君の願いも叶えたに違いない。そうだろ? 人間の形をしたまま長い時間過ごすのは大変なことなんだ。君が小さい頃に両親が買って来た招き猫があるだろう。きっとずっと君を守って来たんだ。別れが寂しくてさよならを言えなかったんだ。わかってやってくれ。」そう話す事務員の瞳孔が、夕日に照らされた瞬間にとても細くなった事に気付いた。その瞳を見て僕は全て理解した。不思議と怖くはなかった。彼女もそんな瞳をしてたから。