またこの日がやってきた。そう、マスタリング。いわゆる音作りの最終行程。マスタリングで最終的な音決めをするわけだが、スタジオで一度決めた音を検聴で改めて聴いてみると「本当にこれでいいのだろうか?」と思えてくることがままある。マスタリングスタジオで聴いたときの感じと、検聴用の音源を自宅のニアフィールドモニタースピーカーで聴いたり、ヘッドフォンで聴いたりする感じは意外と異なるものである。人の感覚というものは本当にいい加減なもので、聴こえ方ひとつをとっても、環境に大きく左右される上、その日の気分や体調なんかによっても全然ちがって聴こえてきたりするから困ったものだ。優柔不断は大敵だ。慎重に思い切りの良い判断を下す必要がある。しかもCDには印刷物もついている。いわゆるジャケットやブックレットがそれにあたるわけだが、印刷物におけるマスタリングが色校正や文字校正にあたると思う。音の聴こえ方と同じで色の見え方も日によって変わったりするのがまたやっかいで、やたらと赤みが気になるなと思っていたものが、翌朝改めて見てみるとそこまで気にならない、なんてことがざらにある。使用する用紙の特性によっても色の出方が変わってきたり。そんなことを繰り返しているうちに音も色もモニタリング環境が大切なんだなと実感するわけである。自宅のモニタリング環境を整えようと思い立って早何年……いつまで経っても重い腰は一向にあがる気配はない。

【Lyric, Qetic, Music】第六回「優柔不断の即断即決」 88301-700x525
アレンジャーの自宅にエンジニアの機材を持ち込み共同作業。アイドル楽曲で初めてプリミックスをした。
西海岸的なアプローチ、だと個人的には思っている。

マスタリングスタジオに音源を持ち込む前に、トラックダウンという作業をする。昔はスタジオに集まっていろいろと確認しながらやったりもしたのだが、最近はミキシングエンジニアが作業した音源をデータとして送ってもらいそれぞれがそれぞれの環境において確認するというやり方が増えてきた。オンライン上のやりとりで完結できるわけでそれはそれで効率的であるが、それが音楽的なやり方かどうかは賛否両論分かれるところで、実際の現場でのコミュニケーションが希薄になることで失われるものもまた多くあるということを我々はこれまでの経験から知っている。現代の日本の住環境や音楽シーンにマッチした制作のあり方とはどんなものだろう。そんなことを考えながら日々の仕事をこなしているわけだが、今回アイドル楽曲で初めてプリミックスをしたので、せっかくの機会ということで今回はそのことについて記そうと思う。通常、ミキシングエンジニアが作業したらそれをチェックして、修正して、というのを最終的に着地するまで繰り返す。それを一度エンジニアがミックスすることで見えてくる問題点であったり課題であったりをまとめて、アレンジャーらともう一度アレンジの詰めを行ってから再度ミックスをするのがプリミックスの流れである。本ミックスの前に一度ミックスするからプリミックスと言うわけだ。日本ではあまり親しまれていない感じがするが、スペースに余裕がある(作業できる場所がたくさんある)海外では比較的よくやっている手法のように思う。ジャンルでは映像のサウンドトラックなんかが多い気がする。鳴り方ひとつが演出に関わってくるということで、作品全体の世界観に影響するからであろう。今回はアレンジャー宅にエンジニアが機材を持ち込みアレンジの手直しをしつつミックスをした。「ここがもうちょっとこうなっているといいのにな~」というようなポイントをその場で修正・調整することができるので、これはこれで大変効率的なのである。オンラインでのやりとりではないので、アナログな感じがするが、時代に逆行している感じはしない。むしろ最先端なのではないかと思えてくるくらいに新鮮であった。また機会があればこのアプローチでやってみたいものである。

【Lyric, Qetic, Music】第六回「優柔不断の即断即決」 88300-700x525
真夜中のオープンカー。肌寒い日だったけど、フロントガラスが風を防いでくれるからか、そこまで寒くは感じなかった。
あいにくこの日は星が見えなかったのが残念である。

最近、音楽以外の趣味を持たないと豊かな人生を送ることができないのではないかと思うようになった。趣味を仕事にしてしまうと、若いうちはそれでいいのかもしれないが、年をとるにつれて、だんだんと息が詰まってくる。「趣味は?」と尋ねられたときに「ドライブです」などと答えていたのだが、その理由を問われたときに「運転しているときは客観的に音楽を聴けるから」なんて言ってしまっている自分に気づいたときにまずいと思った。何でも音楽に結び付けていたのでは、それはそれで拡がりの可能性を狭めているのではなかろうか。前はハーフマラソンなんかをやっていたのだが、最近はさっぱりである。身体を動かす趣味をひとつ持ちたいものだ。ここはひとつ、ゴルフの打ちっぱなしにでも行ってみるか。思うこと自体は実に簡単で、実際に行動に移すのはとても大変である。重い腰は一向にあがる気配がない。