偉大なる演劇人、蜷川幸雄の通夜が先月15日に催され、藤原竜也をはじめとする大勢の俳優陣、著名人が集った。その通夜も終わりを迎えようとする頃、急ぎ足で会場に駆けつけた女優がいた。大空祐飛

宝塚で男役トップスターを務め絶大な人気を博し、2012年7月に惜しまれつつも退団。約20年間、宝塚に全てを注ぎ込み、退団後は「これから何をしていくのか、何をすべきなのか全く分からなくなり、ほぼニート状態」だった。他業種に履歴書を持って行ったこともあるが、普通ではないその経歴欄を見てなかなか受け入れてもらえず。過去と未来の狭間で自問自答の日々。何カ月もそんな状態が続いていた時、知人に誘われて蜷川幸雄の舞台稽古中の稽古場を訪れることになる。それがきっかけで蜷川とも話すようになり、「君にいい役があるよ、やってみるかい。」と声をかけられたのが『唐版 滝の白糸』でのお甲役、なんと主役だった。

故・蜷川幸雄氏によって男から女に生まれ変わった実力派女優、大空祐飛 art160601_r_1

宝塚退団から1年以上経った2013年10月、蜷川幸雄が芸術監督を務めるシアターコクーンで、女優として初の舞台を踏み好評を得るものの、長年、体に染みついた「男役」としてのしぐさやセリフ回しがすぐに顔を出しそうになり、毎日が試練だった。その後、三上博史や能・狂言の実力者と共演した『新版 天守物語』、大空本人が企画・プロデュースして伝説の女性画家タマラ・ド・レンピッカの生涯を見事に演じあげた『La Vie』、風間杜夫、豊原功補との濃密な3人芝居『死と乙女』、橋爪功との名シーンが話題を呼んだ『TABU』、哀川翔や青木さやからユニークな面々と共に、笑いと感動で舞台裏の人間たちを描いたラサール石井演出の『HEADS UP!』など、着々と女優としてのキャリア、演技力をアップさせてきた。

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