ほんの少し前に出るだけで、アートに対する見方が変わるし、生活の中での楽しみ方も変わる。例えば、チーム・ラボの<お絵かき水族館>。アートとテクノロジーが融合して、見るだけでなく、触ったり、動かしてみたり、実際に距離が近づくことで生まれる「新しいアートとのコミュニケーション」であると思います。

“アートとにらめっこする人生におさらばしたい。”

学生時代、日本中の美術館を見る中でずっ〜とそんなことを考えていました。空間演出や作品から発せられる親しみを込めたコミュニケーションだけではなく、僕達・私達がアートとの距離をちょっとでも縮められるきっかけを与えたい、と。アートに対する感受性と社会の豊かさは、なんだか比例しているように感じています。

今回ご紹介するのは、ICC(NTTインターコミュニケーション・センター)です。ICCは、現代アートの美術館として、10年前に新宿にオープンしました。特徴は、大きく分けて3つです。

1つは、「1年」を通じて「無料」で参加できること
2つは、「コミュニケーション」をテーマにしていること
3つは、「技術」と「アート」の対話を通じて、新しい可能性を提示していくこと

です。

はじめまして

はじめまして、Toposa/Ireland 2013さん!

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『Toposa/Ireland 2013』

「はじめまして」−−初めての人に会った時、日本人ではあればこう言います。外国人であれば、「ハウ・アー・ユー」や「ナイス・トゥー・ミーチュー」です。小学校・中学校に入学した時、クラス替えをした時、「はじめまして」の人に会うの緊張しませんでしたか? 「どんな人なんだろう」って思いながら、しばらく微妙な空気の中で生活が始まりますよね。

作品をじっと観ていて感じることは、アートによくある「わからない」という言葉です。見ていて何を感じたら良いのか、何を見つけたら良いのか、とにかく輪郭がはっきりしない。友人と話しても、「結局アートってわからない」で会話が終わってしまう。

でも「わからない」ことは、マイナスではないと思ったのです。だって、彼・彼女(作品)とは「はじめまして」なんですもの。すこ〜しずつ距離を縮めていくためには、時間と対話が必要です。だから、初めて作品に出会った時、「はじめまして」と心の中で思うと決めました。お互いに「わからない」は当たり前のことです。

ICCでキューレーターを務めている畠中さんはこうおっしゃっていました。「作品は長い年月をかけて作られたものです。1年を通して展示をすることで形が見えてくるものや変化をしていくものもあります」。1年を通じて、お互いにコミュニケーションを取っていける。そんな良さがICCにはあると思います。

『Toposa/Ireland 2013』は、高谷史郎さんの2013年の作品です。広くて真っ暗な世界に、8枚のモニターが横一列に並んでいて、繋がることで1つの映像・絵が浮かび上がってくる。時間が立つごとに映像が変化していく過程はとても美しい瞬間です。

はじめまして、ハーモニック・ブリッジさん!

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『ハーモニック・ブリッジ』

『ハーモニック・ブリッジ』は、ビル・フォンタナさんの2006年の作品です。ロンドンのテート・モダン国立近代美術館の前に広がるテムズ川に掛かる橋、ミレニアム・ブリッジから録音された音源と映像です。普段は多くの観光客が賑わう場所ですが、そこから生み出されるとてもとても小さな「音」にフォーカスしています。建築物から発せられる些細な音達は、建築物もまた呼吸している・生きているという新しい感覚を与えてくれます。

こんにちは

こんにちは、ジャグラーさん!

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『ジャグラー』

作品が動いていると、親しみを感じます。それは、動くことで相手の輪郭が少しずつ見えてくるからだと思います。なんだか「わからない」という言葉はつきまとうけど、見ていて安心する、同じ空気を感じる。とにかくすごい、行動が面白い、話し方が面白い、なんだかちょっと知ってみたくなってくる。そんな作品に出会った時は、「こんにちは」と言ってみましょう。

『ジャグラー』は、グレゴリー・バーサミアンの1997年の作品です。その名の通り、オレンジ色の人がジャグラーをし、暗闇の中で高速回転することで一つの流れを作っています。初めて見た時、一番興奮した作品でした。回っているだけで、どうしてこう物語ができるのか。ずっと見入ってしまう作品です。

こんにちは、セミセンスレス・ドローイング・モジュール#3ーポートレイトさん!

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『セミセンスレス・ドローイング・モジュール#3ーポートレイト』は、菅野創+ヤンツーさんの2015年の最新作です。この作品、とにかく不思議なんですが、とても興味がそそられるんです! 写真のように大きなスクリーンに2人の人が写り、向かい側では、ペンが取り付けられた物があくせく動いています。「わからない」という言葉は、ふと頭の中に浮かびますが、それを覆うような「何かが起こっている」という興味が湧いてきます。ぜひ、実際に観て欲しいです!

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